喜劇で悲劇の人形劇第二幕【炎炎ノ消防隊】 (ページ24)

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第73話彼女が止める理由ページ24

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貴『お断りします』

凛とした声が室内に響いた。

声のしたほうを見れば、先程までの愛想笑いは消えていて、真面目な顔で火縄を見つめるAがいた。

貴『今ここで逃げて、もしアンタ達が死んだら。

私はまた後悔する。

それならばいっそ、アンタ達を庇って死んだほうがマシです。』

その言葉に火縄は目を丸くする。それは勿論森羅と桜備も。

Aは、はっきりと、言ったのだ。

また後悔する、と。"また"ということは…

貴『私の両親は、人体発火で死にました。

父と母が、同じ日、同じ場所で。』

それは、森羅や桜備達も知っている情報。

履歴書に書いてあったことだ。

両親を同時に失ってしまっただなんてと、誰もがそう思っていた。

…けれど、真相は本当にそうだろうか？

貴『両親が死ぬ前、父と母は何か怪しい組織を調べていました。

どんな組織なのかは知りません。

……ただ、死ぬ前に遺してくれたプレゼントには、私がある程度暮らしていけるだけの遺産と、形見が入っていました。』

それはまるで、死ぬことを予期していたかのように。

…そもそも、同じ場所で同時に焔ビトになる事は本当にごく希だ。

いつ起きるか分からない人体自然発火

それなのにまるで死ぬことを予期していたかのように直前に用意された遺品

…稀な死に方に怪しい組織。

こんな偶然があるだろうか？

貴『証拠なんてどこにもない、ただの憶測です。

それでも、今でも時々頭をよぎるんですよ。

私があの時止めていれば、何か、少しでも出来ていれば、両親は死ななかったんじゃないかって。』

桜「A……」

両親の死を語るAの顔は、また少し笑っていて、ズキリと心が痛んだ。

何故、そんなにも桜備達を止めるのか、真実を求める森羅を止めようとするのか、ようやく納得が行った。

AはAの考えの元、最善だと思う行動をしていたのだ。

貴『桜備大隊長…アンタはいい人です。

きっとアンタを慕う人は多いでしょう。

そんな人達が、アンタが死んだらどう思うかぐらい、分かるでしょう？』

その言葉で思い出す。Aの志望動機を。

Aは言った。自分と同じ境遇の人を少しでも減らしたいと。

…それは、言い方を変えれば自分のように慕っている人間を亡くし、哀しむひとを、減らしたいと言う事で。

Aはずっと、桜備と、桜備を慕う人のことを想って、反対していたのだ。

………けれど、

桜「………A、」

桜備達にやめるという選択肢はない。