喜劇で悲劇の人形劇第二幕【炎炎ノ消防隊】 (ページ17)

今日:1 hit、昨日:22 hit、合計:23,816 hit

第66話真夜中の通話ページ17

NOside

パチリ

目を開くと、映るのはまだ見慣れぬ二段ベッドの天井だ。

冷や汗で付く髪が気持ち悪い。

まだ暗い部屋の中、時計を見れば丁度午前1時を指していた。

まだ日も上らぬ真夜中だ。

けれど彼女は何も言わず、まるでいつも通りと言わんばかりにベッドから降りた。

貴『(…今日の夜勤は…)』

確か、桜備だったはず。

そんな事を考えながら彼女は携帯を持ち出し部屋を出て行った。

コツ…コツ…

誰もいない、真っ暗な階段を登っていく。

できるだけ足音を立てずに登っていくが、他に何も音の聞こえない空間では、その足音はとても、とても大きく聞こえた。

ガチャッと屋上扉を開ければビュオゥッと大きな風が吹き抜けた。

バサバサと重い前髪と襟が風で暴れる。

けれど彼女は気にした素振りも無く扉を閉め、屋上の端で宙に足を投げ出して座った。

相変わらず風は強いままだ。

きっと他の皆が見たら危ないと注意するような場面だろう。

けれど誰もいない今、そんな事を注意する声はどこにもない。

パチッと携帯を開き、慣れた手付きで番号を打つ。

履歴には無い番号だ。

プルル…プルル…と数回のコール音の末、画面は通話中へと切り替わった。

「………よお」

貴『やってくれたな、ジョーカー』

相手の言葉を遮るようにAが言う。

その声からは感情が読み取れず、通話の相手…ジョーカーは小さく息を呑んだ。

ｼﾞｮ「いつまでも知らぬ存ぜぬじゃまかり通らねえ」

貴『知らないからアイツは普通に生きていけるんだ。』

知らなくていい真実を押し付けるなと、低い声を出す。

そんな彼女の声に、ジョーカーはただ煙を吹いた。

ｼﾞｮ「いつまでも逃げ回ってねえで立ち向かうべきだ」

貴『あんな物には関わるだけ無駄だ』

ｼﾞｮ「そうやって死ぬまで逃げ続ける気か？」

貴『それ以外に何がある』

…暫し、静寂が続いた。

電話の向こうでは煙を吐くような、ため息をつくような息遣いだけが聞こえた。

ｼﾞｮ「…もう少し信頼してやってもいいんじゃねえか？」

貴『してるさ。してる上で無理だと判断してるんだ。』

ｼﾞｮ「だからなぁ…」

ジョーカーが何か言いかけた時、コツ、コツと足音が聞こえた。

ｼﾞｮ「？おいA…」

ブツッと反射的に通話を切る。

足音が近付いて来る中、Aは履歴を開き、先程の通話の履歴を消して携帯をポケットへと滑り込ませた。

そうして、扉を開けた足音の主へと笑顔で声をかけた。

貴『…あら…おはようございます。大隊長』