喜劇で悲劇の人形劇第二幕【炎炎ノ消防隊】 (ページ11)

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第60話落ちる君に手を広げページ11

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冷静に、近づいてくる地面を見つめる。

貴『(高さは大体15mくらいか…)』

大体2階建てちょいくらいの高さ。

この程度の高さならば頭から落ちなければ恐らく死ぬことは無い。

貴『(運が悪くて複雑骨折、上手く行けば無傷…だな)』

ちゃんと受け身を取って着地をすれば怪我をしない程度の高さ。

受け身を取る時間も問題ない。…これならば。

Aは身体の向きを変え、受け身を取る準備をしようとした、その時

「A！！！！」

そんな声と共に、誰かが走ってくる姿が視界の隅に入った。

貴『(なっ…！)』

こちらに向かってくる人間の姿を見て、Aは目を見開く。

それは何者でもない、先程アーサーを受け止めたばかりの桜備の姿だったのだから。

馬鹿だ。そう反射的に思った。

先程もそうだったが、落ちてる人間を、無能力者が、ただの人間が受け止めようなど馬鹿な話なのだ。

運が良くなければ大抵は怪我をするし、打ち所が悪ければ死ぬ可能性だってある。

例え訓練しているとしても、あまりにも馬鹿な行為なのだ。

………でも、

走る桜備のその顔は、本当に必死な表情で、

きっと、何も考えてないのだろう。

貴『(本当に、アンタはそういう所がある)』

…だから、嫌なのだ。

そういう、平然と無茶をしてくる所が、嫌なのだ。

けれど、来てしまったものは仕方がない。

この状況から着地をするわけにも行かない。

今の状態で着地をしてしまえば怪我をするのは桜備だ。

貴『………仕方ないなぁ…』

今回ばかりは、大人しく受け止められて上げるしかない。

そう思いながら、Aは逆さまに落ちている体をグンッと起こした。

そのまま、下を向いて手を広げた。

受け止めようと手を伸ばし走る桜備と同じように。

桜「A！！！！」

助けなければ。

そう思ったとき、既に桜備は駆け出していた。

まさか、Aが落ちるとは思わなかったから、焦ったのだ。

それとは対象的な彼女は落ちている本人だというのに冷静に、こちらを見て

心底驚いた様な顔をした。

その後、呆れたような表情になり、体勢を変えてこちらに手を広げる。

どうやら素直に受け止められてくれるつもりのようだ。

桜「(よかった…)」

この状況でいらないだなんて言われたらどうしようかと思ったなどと、くだらない事でホッとする桜備。

真下までたどり着き、彼女をしっかりと受け止める為に微調整をする。

………その為に、彼女を見つめたのだ。

風で、前髪をたなびかせる彼女を。