ヒロインになりたい。 (ページ2)

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「なに」

「もー、出るの遅い。まさか寝てたの？」

いつも通り、明るいふわふわした声。

起こしちゃってごめんねえ、と電話越しに謝られる。

「…寝てないけど。で、なに？」

「いやとくに用はない！Aちゃん何してるかなぁって」

「だと思った、じゃあ用ないなら切るね？」

ちょうどエレベーターがきて乗り込む。
電話を切ろうとした瞬間

「まって、いまどこにいんの？」

「え？」

「…ねえ。まさかまだ会社とか言わないよな？」

しまった、と思った時には遅かった。きっと彼はこの独特なエレベーターの音で気付いたんだ。

私がなにも言わないでいると「そこにいて、迎えに行く」と慌てた声で言って電話を切られる。

ふとスマホに目を落とすとトーク画面に戻ってた。

〈そとでないでなかでまってて〉
〈ろびーのいちばんあかるいとこにいて〉
〈いますぐいく〉

内村くんらしい全文ひらかなのメッセージが立て続けに届いた。

…ああ、今会いたくないのに。

内村くんは同期で同い年。
わたしは経理部で内村くんは営業部で別部署だけど、経費精算の関係で関わりはある。
よく経理と営業は犬猿の仲と言われてるが別にそんなことは無い…と思う。

お互い派手な飲み会とか苦手だったから入社当時よく2人で会社の飲み会抜け出してたり、仲良くなったきっかけは覚えてないけど。

…いやきっと、入社してすぐの研修からか。

内村くんは誰にでもやさしかった。

対等に接してくれるから同期の中でも人気がある。
でも彼はいつも、入社当時から今でもわたしを気に掛けてくれる。

だからたまに弱音を吐きたくなりそうになる。それが嫌で今は会いたくなかった。今弱ってる自分を見せたくない。

内村くんは優しいから………いまは会いたくない。

まあそんなこと思ってても彼は数分後ここに迎えに来る。

なんか去年も同じようなことがあったような、

何でここまで気にかけてくれるのか、謎だけど。
きっとこんな時間まで残業してることも怒られるんだろうなーなんて思いながら1階の受付横のソファに腰掛ける。