95話「さあ、家に帰ろうか」 ページ2
ビルの最上。
少年は膝を抱えながら、混雑した東京の風景をぼんやりと眺める。
彼は大事な友との別れを、果たした。
赤みのある目尻と乾いた瞳が、彼の名残惜しさを物語っている。
背後から下駄の音が鳴るのを聞き、少年は厄介なものが来たと言わんばかりに顔を顰める。
少年は、後ろを振り返らなかった。
桜哉「…何ですか、椿さん」
椿「やあ桜哉。迎えに来たよ。」
椿と呼ばれた男はクスクスと笑い、何の断りもなく彼の隣に座る。
片手にはコンビニ袋があり、そこから好物である抹茶味のダッ○が出てきた。
簡易なスプーンの袋を破り、その場でアイスの蓋を開ける。
桜哉「……ここで食べるんですか。」
椿「家まで帰ってたら完全に溶けちゃうでしょ?
それに、桜哉を揶揄いながら食べるアイスって最高じゃない」
愉快な椿とは対象に、桜哉は舌打ちをする。
本人の顔を見ていると、今にも手や足を出しそうなので視界から外すようにそっぽを向く。
椿「君があの子をどんな風に想っていたのかなんて、僕にはお見通しだよ。
なんたって家族だからね。
……その様子だと、ちゃんとけじめをつけられたみたいだね」
桜哉「…ちゃんと振られてきましたよ。
最後にまた名前も呼んでもらえたし、もう未練はありません。」
しかし頭の中で蘇るのは彼女の表情や声。
最後に抱き合った時の温もりや感触がまだ残っている。
それほどまでに、自分は彼女に強く惹かれていたのだ。
椿「でもさ、簡単には諦められないでしょ?
本当に城田真昼に譲っちゃっていいの?」
桜哉は少し驚いて、椿に目を向ける。
椿は足をプラプラと揺らしながらアイスを一口食べていた。
彼が彼女の気持ちまで知っているとは思わなかった。
さらに、椿は氷麗に対して「嫌い」だと言っていた。
だが、彼女の話になると妙に食いついてくる。
桜哉は微かな違和感を感じていた。
椿「僕だったら自分のお気に入りを相手に渡したりしない。
奪われたのならどんな手段を使ってでも取り返してみせるよ。…例え本体が壊れてもね」
そう言った彼の目は、どこか歪んでいて狂気的だった。
アイスを食べ終えたのか、コンビニ袋にゴミを入れ始めた。
椿が立ち上がり、先に進むことで反射的に桜哉も立ち上がる。
椿「もし、あの子が家族になるとしたら。
桜哉は嬉しいかい?」
唐突の質問に桜哉は立ち止まる。
言っていることはシンプルなのに、その真意がわからない。
椿「…なんてね。
さあ、家に帰ろうか」
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レモンティー(プロフ) - 抹茶さん» 返信が遅れてしまい申し訳ありません。翡翠の真昼に対する思いや頑張る姿を褒めていただきありがとうございます。キャラの深掘りもどんどんしていきたいと思っています。私情や漫画(本編)の進行具合によってかなり時間がかかると思いますが今後も更新頑張ります! (2021年10月13日 4時) (レス) id: a8c312a3ba (このIDを非表示/違反報告)
レモンティー(プロフ) - ちゃちゃさん» コメントありがとうございます。長らく放置していたため返信が遅くなってしまい申し訳ありません。キャラの関係性は特に物語が発展するうえで頑張っている部分なのでそこに着目してくださるとは…めっちゃ嬉しいです! (2021年10月13日 4時) (レス) id: a8c312a3ba (このIDを非表示/違反報告)
抹茶 - 翡翠ちゃんの真昼や桜哉、御園との関係性がすごく素敵ですし、大好きな真昼たちのために少しでも支えになりたいと、頑張る翡翠ちゃんがとっても可愛くて、応援したくなります。更新、待っています。 (2021年1月23日 10時) (レス) id: f3d962ce08 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃちゃ(プロフ) - 小説すんごくステキです!さくや、御園との関係性最高です! (2021年1月2日 5時) (レス) id: f790642b1e (このIDを非表示/違反報告)
レモンティー(プロフ) - ありまさん» 大変失礼いたしました!更新や再度名前の確認をいたしましたが機能されているでしょうか?また、お名前の変換が(名前)のままになっていないかなども見ていただければ幸いです。ご不明な点がありましたらコメントでお聞かせくださいm(_ _)m (2020年3月18日 18時) (レス) id: a59b8a8518 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レモンティー | 作成日時:2020年3月14日 21時