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ロシアの吸血鬼たちはルクが着ているコートと同じものを身に付けているが、今目の前に居る吸血鬼たちはグレーや黒のコート。
遠い昔にサングィネムで見た白の衣服を纏った吸血鬼とも違い、困惑の色を深めていると彼らは不思議だと言わんばかりにこちらに目を向けてきた。
すなわち、Aがルクの庇護下にいる人間だと知らない吸血鬼だ。
こちらを見る、いくつもの赤い双眸が怖い。
「捕まえてかまわないだろう」
その中の一人が関心無さげに呟いたことで、二人の吸血鬼が飛び出してきた。
何とか廊下の角をうまく使って一撃目をやり過ごすも、二度目となると策がない。
恐怖に支配された体はまともに動かないし、声も喉が貼り付いて出ない。
足を縺れさせて転ぶと、膝から血が滲む。
だが、それが吸血鬼たちの目の色を変えさせた。
赤い瞳に狂気が、渇望が生まれる。
それを見てしまえば腰が抜けて立ち上がることもできない。
足首を捕まれた。
唯一自由だったもう片方の足首も別の吸血鬼から伸びてきた手に捕まる。
そこからはもう彼らの自由だった。
もちろん抵抗せずに引き摺られた訳ではない。
だが、吸血鬼にとって人間の抵抗など可愛いものでペットがじゃれつくような物にしか見えないらしい。
鼻で笑われて終わってしまった。
そのままうつ伏せで引き摺られ、近くの資料庫や倉庫として使用されている部屋に連れてこられた。
これから何をされるかなんて分かりきっていた。
体が震えて止まらない。
薄暗いこの場所で壁を背に追い詰められ、四人の吸血鬼に囲まれた。
このままでは血を採られる。
「口は塞いでおけ。都市での直接の吸血は認められていないからな」
「ん、ぐ………」
「あまり良い匂いはしないが、配給の血を飲むよりはマシだろう」
「家畜ごときが貴族の方の拠点に入り込むとは…まあ、我々で処分したところで何も言われまい」
ハンカチのような布を口いっぱいに含まされたAは息苦しさに悶絶する。
吸血鬼にとって意味のない家畜へ配慮するつもりも無いのだろう。
指で乱雑に入れ込まれたそれに気道を塞がれ、少しでもと気道を確保するため体が生理的な反応を起こし咳をした。
それを見た吸血鬼は抵抗と勘違いしたのか、力任せに顔を殴り付けてくる。
久しく感じていなかった、家畜としての畏怖が心に戻ってきた感覚があった。
それはじわりと心を侵食し、遂には諦めという感情が全てを支配する。
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ぽっぽ(プロフ) - 続きが楽しみです!!! (2021年3月22日 23時) (レス) id: 16e5bc7bb2 (このIDを非表示/違反報告)
mami20030804(プロフ) - ルク様の小説がなかなかなくて悲しかったのですが、久々に占ツクを開いてみたら面白そうなお話が上がっていたので読んでみると本当に面白くて最初から最後まで1日で読んでしまいました。毎日今日は更新してるかなと気になって毎日開いています(^^) (2021年3月10日 22時) (レス) id: be7fc41ca8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆりりん(プロフ) - 続きが読みたい!!(クソデカボイス) (2021年2月5日 7時) (レス) id: 9679665185 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2021年1月25日 1時