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ルクはドアを閉め、報告の為にやって来た吸血鬼を見やる。
彼女の浮かない表情をしている顔を見てなんとなく報告の内容は良いものでは無いのだと直感した。
「一番面倒な役割押し付けて悪かったな。Aは…どうだった」
「かなり取り乱しておいででした」
「そうか……。もういい、下がっていいぞ」
最初からこうなることは分かっていた。
無理矢理にAを引き離せば、彼女は泣き叫んででもルクを求めると。
瞼を閉じれば泣き叫ぶ彼女の姿を簡単に脳裏に思い描くことができる。
いつまでこんな酷いことをするかはわからない。
だが、もうこんなことをしてるほど悠長に過ごせる時間が無いのはルクも分かっていた。
シンプルな書斎机にある引き出しから暦を数えるためのものを取り出す。
荒廃した世界で吸血鬼が使うにしては全く役に立たないもの。
経過した日付ごとに印がつけられたそれはルクとって最も重要な日を示すものだ。
ウルドとの約束の日。
それはAの未来を決める、彼女にとっての大きな分岐点となり得る日だ。
その約束の日を違えないために、ルクはウルドと約束を交わした日の夜からずっとこうして昇る日の数を数え、迎えた夜を数え、記してきた。
これによればあと一年半。
Aには考えて選ぶ時間を与えるとして、このことを隠し通すのは最低でもあと半年だろう。
本来ならこんなことをしている場合ではないのに。
「なにやってるんだ、俺」
全くもって自身の心の整理がままならない。
暦を机上に転がし、背もたれに体を預けた。
仮に半年後、ウルドとの約束事をAに伝えるとして、ルクは過去にあった出来事を彼女に伝える気だ。
それがどんなに酷く傷つける事になっても、彼女に関係することを黙っている訳にはいかない。
ただ、私利私欲のためにAを側に置いたことを後悔をしているかと聞かれれば別だ。
結果的に良かったとさえ思っている。
彼女はきっと三十年前に存在した少女にそっくりなだけ。
生まれ変わりなどと都合のいいものではない。
それでもAは幼いながらもルクを慕い、一途に信じてきた。
それはもう恐ろしいまでの一途さだが、これにこれまでにないほど揺らいでいたルクが支えられたことも事実。
今では記憶の中の彼女のように唯一無二の大切な存在だ。
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こんぺいとう(プロフ) - ぽっぽさん» ありがとうございます!新しいものはあと一週間くらいで公開できるかと思いますので、もう少しお待ち下さい〜! (2021年1月21日 20時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぽ(プロフ) - おもしろくて勢いよく読みました!!!続きが楽しみです! (2021年1月20日 9時) (レス) id: f5136f3fcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年11月8日 21時