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ジャケットを握りしめたまま、半ば叫ぶかのように不満を漏らしたAへ反射的にマズいと直感した時には既に遅かった。


ついには大粒の涙を瞳から溢し始めた彼女にルクはぎょっと目を見開く。


さすがにこれは想定外である。
Aが深刻に捉えている事をあまりにも適当にあしらい過ぎたと瞬時に反省した。




「お、おい、泣くなって!そんなつもりで言ってるんじゃ…」

「うぅ…いじわる」

「わかった、わかった。俺が悪かったちゃんと無傷で戻ってくるから!!」




半ばやけくそになりながらこんな小さな人間の少女に振り回される自身が可笑しくてたまらなかった。


ずいと差し出された小指に自身の小指を重ね、絡めながら、ルクは思うのだ。


こんな生き過ぎて狂気を抱えた身でも、信じられないほど愛されていると感じられるこの瞬間が愛しいと。


あれほどまでに淡々と流れる時間に苦しさと狂気しか感じなかったのにも関わらず、今が愛しい。


そう思わせてくれる唯一無二の彼女を守るために、戦場を駆け抜け、驚くほどの早さで戻ってきて安心させてやりたい。そう思う。





「約束だからね」




約束なんてどうでも良い。


全てはAのためだ。


彼女が健やかにこの場所で笑っていられるように、大喜びで危険な役割だろうがなんだってする。




「大丈夫だ。ちゃんと帰ってくる」

「ほんと?」

「ほんと、ほんと。お前が待ってるんだもん」




涙の跡を指の腹でなぞり消しながら、ルクは薄く笑う。


久しぶりに、こうして心から身を心配された胸の内は不思議と温かだ。


この感情の移ろいが何と言えばいい物なのかはとうに忘れ、思い出せないものの悪くないと思う。


心配する者がいて、してくれる者がいて。
こうして思い合うだけで人間になったかのような錯覚さえある。




「…ったく、お前は。俺の調子を狂わせる天才だなー」

「…なにそれ」

「いいよ、何があってもお前の居る場所に戻ってきてやる。お前がどんなに来るなって叫んでも追っかけてお前の居る場所を俺の居場所にしてやる。帰ってきたら覚悟しとけよ」




わざとらしくリップ音を立てるよう唇を奪い、Aが固まった隙にするりと腕の中のジャケットを奪い取る。


本来の持ち主の手の中に戻ったそれは、気がついたAが手を伸ばしても届くことはなかった。

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こんぺいとう(プロフ) - ぽっぽさん» ありがとうございます!新しいものはあと一週間くらいで公開できるかと思いますので、もう少しお待ち下さい〜! (2021年1月21日 20時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぽ(プロフ) - おもしろくて勢いよく読みました!!!続きが楽しみです! (2021年1月20日 9時) (レス) id: f5136f3fcb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年11月8日 21時

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