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Aは服の上から消えない傷がある辺りをそっと撫でる。
甘く疼く傷はだいぶ良くなったものの、やはり彼の言うとおりで塞がりきった肌が元通りとはいかなかった。
この傷のことはあまり気にしていない。
むしろ愛しさが沸くせいで、愛着を持っているくらいだ。
共に日常生活を送るなかで、ルクが無理に吸血衝動を抑えているのはかなり前から知っていた。
だが、見てみぬふりをしていた。
彼が隠そうとしていることを無理に暴く真似をする気になれなかった。
側に居れば居るほどルクが辛い思いをする時間が長くなることをわかっていて、その間、彼に負担を強いたことへ罪悪感が無かった訳ではない。
彼はAが願えばいくらでも叶えてくれる。
より多くと望めば望んだ分だけ。
それがいつしか更に求めるようになり、両手をこぼれ落ちて溢れた。
手に負える限度はとうに越してたのであろう。
側にいる以上は分かち、理解し合い負担を負うべきとさえ考えた自身が浅はかだったのだ。
結果、大変なことになってしまった。
あの事が起きてからというもの彼は時折、Aの姿が視界から消えたときに酷く不安な気持ちを露呈するかのように表情を出す。
傍目からすると落ち着いては見えるのだが、視線はAをこれでもかと探しているのだ。
今までは決まってAがルクについて回っていたのだが、その頃から立場が逆転した。
ルクが彼女の側を頑なに離れなくなった。
何かを不安に思っている気持ちは鈍感なAにも十分に伝わってきた。
罪悪感を感じることがある一方で、Aはルクが側に居てくれようと努めるその姿勢をとても好ましく思っている。
傷すらも彼に与えられたものであると心の片隅では喜んでいるのだ。
なんと醜い、歪な人間であろうか。
「ルク」
両手を広げて名前を呼べば、彼はすぐさまその胸にAの身体を納めてくれる。
こんな醜い人間であれど許し、愛してくれるのは彼だけだ。
彼もまた、Aの胸のうちを知っているのだ。
だからこそ、唯一を傷つけた自身を許す事ができた。
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こんぺいとう(プロフ) - ぽっぽさん» ありがとうございます!新しいものはあと一週間くらいで公開できるかと思いますので、もう少しお待ち下さい〜! (2021年1月21日 20時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぽ(プロフ) - おもしろくて勢いよく読みました!!!続きが楽しみです! (2021年1月20日 9時) (レス) id: f5136f3fcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年11月8日 21時