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しばらく、ぼーっとAの寝顔を眺めていたルクだったが、立ち上がり、ウルドへ向き直るともうしばらくここで寝かせておいて欲しいと頼み込んだ。
嫌々了承したウルドをその場に残し、ルクが向かった先は以前にAの生活拠点を移そうと掃除したまま放置してあった部屋だった。
あんなことをしておいて、もうAと生活を共にできないと思った。
Aが良くともルクの心が、良心が良しとしない。
もう限界だった。
共に居たいと願う心は確かにあるのだ。
Aと同様、ルクの中にもそれは存在している。
だが、ルクの中のものは純真無垢なAと違って、彼女を大切に思うが故でもありながら酷く利己的で醜い願いだ。
三十年前に成せなかったこと、願っていても叶わなかったことをAで叶えようとしている。
それでいて三十年前に抱いた思いとはまた別の感情を抱えつつあるのだ。
彼女を大切にしようとも思う。
三十年前にできなかったことを叶えたいとも思う。
彼女の意思を尊重したいとも思う。
自身の願いのために彼女に側に居て欲しいとも思う。
相反する感情と考えが沸き上がり、ぐちゃぐちゃと混ざるものだから、胸が苦しくてたまらない。
もはやそれらを一度全て放棄したかった。
Aが目覚めて、ルクの部屋に戻ろうとしても、彼女を部屋に入れる気はない。
彼女には別の部屋を生活の拠点とし、ルクとしばらくは接触しない暮らしをしてもらう。
幸いにも、ロシアに来て時間の経過と共に周囲の吸血鬼たちにAのことは理解を得られている。
身の回りの世話は彼らにさせれば問題ない。
最初のうちは泣きわめいて真っ当な生活を送れないかもしれないが、それでも彼女の手を取ることはもうしない。
彼女はきちんと自立している。
もう側にいなくてもきっと大丈夫。
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こんぺいとう(プロフ) - ぽっぽさん» ありがとうございます!新しいものはあと一週間くらいで公開できるかと思いますので、もう少しお待ち下さい〜! (2021年1月21日 20時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぽ(プロフ) - おもしろくて勢いよく読みました!!!続きが楽しみです! (2021年1月20日 9時) (レス) id: f5136f3fcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年11月8日 21時