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以前もしていたルクの仕事の手伝いの一環で、資料や書類などの整理を任されたA。
今日の仕事内容は指示された場所へ運ぶといったものだったが、その最中に廊下で気になる人物を見つけた。
自身の腰程度しかない身長に、頭に被っているハット。
三つ編みでまとめられた左右で非対称な髪色は強く印象に残った。
「………子供?」
思わず口をついて出た言葉に彼がぴくりと反応した。
「人間、誰が子供だって?」
両手で支える書類の束を気にしながらちらりとその"子供"へ視線を向ける。
酷く低い声で発せられたそれは敵意を含む刺々しさを放っており、意味も分からず体の芯から震えた。
所謂、殺気というものだ。
体が震えた直後、Aの視界はぐるりと反転する。
一瞬何が起きたのか理解が追い付かない。
手を離れた書類たちが宙を舞い、これではルクがウルドに怒られてしまう。
そう思った時にはもう遅かった。
「っあ……!」
「家畜の分際で僕を子供呼ばわりか…いい度胸だな」
背中を床に激しく打ち付け、一瞬だけ呼吸がままならなくなる。
口を広げ何とか酸素を取り込もうとするが、超人的動きをする"子供"はAに馬乗りになると、簡単に片手だけで首の気管を塞ごうとする。
力の入りきらない手で抵抗するも、それは全くの無意味であった。
怒りに満ちた赤い瞳は激情に染まっていた。
それほどまでに子供扱いが気に食わなかったのか…。
いや、この子供の見た目をした彼は吸血鬼のひとりだ。
それならば赤い瞳に子供とは思えない俊敏な動きと力強さにも納得がいく。
そろそろ口内に新しい酸素を取り込みたいが、ぱくぱくと口を動かしたところで喉もとを潰されているため、難しい。
次第に苦しさが増す。
その時、霞みがかる視界の中で見慣れた藍がひらめいた。
____助けて
「剣よ…俺の血を吸え」
声にならない声でその彼を呼ぶと、彼はそれに応えるかのように血を吸わせた剣を出現させた。
シュルシュルと血を吸いながら己を強化する剣はまるで生き物のよう。
初めて目にするルクの武器。
「お前っ!」
「第三位始祖様でも俺の子に手を出すのはちょっと困りますねー」
「なら、こいつにちゃんとした教育をしておけば?」
ルクの手甲剣を易々と片手に持つステッキで受け止めた彼はさも不愉快だと言わんばかりの表情をする。
その様を呆気にとられたAは床に転がったまま見守っていた。
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こんぺいとう(プロフ) - ぽっぽさん» ありがとうございます!新しいものはあと一週間くらいで公開できるかと思いますので、もう少しお待ち下さい〜! (2021年1月21日 20時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぽ(プロフ) - おもしろくて勢いよく読みました!!!続きが楽しみです! (2021年1月20日 9時) (レス) id: f5136f3fcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年11月8日 21時