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「俺も、Aの側に居たいんだ」
そう言ってルクは困ったように破顔した。
漸く_____
「お前がそう言ってくれるなら、許してくれるなら、俺は側に居たい」
「きっかけなんて私は気にしないよ、ルク」
漸く、この刹那の彼の心を____
「側に居てもいいのか?」
「うん、私もルクと一緒に居る方がいい」
漸く、彼の心を過去の人間から真の意味で奪う事ができた瞬間だった。
_____望むはこの刹那、愛しい吸血鬼の心。
室内とは言え、冷え込む夜の空気はAの身体を容赦なく冷やした。
話もそこそこに、ベットに運ばれ下ろされると布団で身体をくるまれる。
手足の先すらも布団から出す事を許さず強引に押し込められて、まるで団子か雪だるまのようだ。
いつもの過保護な吸血鬼が戻って来た。
嬉しくてつい笑っていると小突かれた。
「おい、何笑ってるんだよ。身体を冷やしたら風邪引くだろ」
「風邪引いてもルクが治してくれるでしょ」
「ったく……」
「ふふっ」
乱暴に頭を掻いた彼は少し待ってろと言い残してどこかへ行ってしまった。
久しぶりに顔を合わせ、声を聞いた。
そして、本当の意味でAを彼がその瞳に映してくれた。
これ以上に嬉しいことはなかった。
今も彼はAのために奔走している最中だろう。
何をするために部屋を出たのかはわからなかったが、それは彼が戻れば自ずとわかってくることだ。
久しぶりに身を委ねる、この温かな感覚に酔いしれるようにAは顔半分を纏っている布団に埋めた。
ルクが戻ってきたのはそれから数分経っての事だ。
彼は湯気が昇るマグを片手に持ちやってくると、Aを差し出した。
甘い香りがする。
マグから漏らさないように両手で受け取ると、そこにはチョコレートのような色をした飲み物が注がれていた。
そっと口を寄せて一口、二口と飲む。
チョコレートにしては少し甘さが控えめだが、それらしい甘い香りがする。
不思議に思ってマグの中身を見つめていると、ルクがミルクにチョコレートを溶かしたのだと教えてくれた。
ふわりと香る甘い香りと合わせて堪能し、体がほかほかと温まっていると伸びた手にひょいっとマグを取り上げられる。
慌てて取り替えそうとしたが、中身をひっくり返してしまいそうでやめた。
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こんぺいとう(プロフ) - ぽっぽさん» ありがとうございます!新しいものはあと一週間くらいで公開できるかと思いますので、もう少しお待ち下さい〜! (2021年1月21日 20時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぽ(プロフ) - おもしろくて勢いよく読みました!!!続きが楽しみです! (2021年1月20日 9時) (レス) id: f5136f3fcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年11月8日 21時