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部屋の主は苛立ちに任せて外開きのドアを押した。
それに焦るような声が聞こえ、次の瞬間には何かがぶつかる音が。
そして、ドアノブを持つ腕に重さが加わる。
ぎょっとしたルクは苛立ちを霧散させた。
ドアを引き、首だけ覗かせる形でドア裏を確認する。
「ぁ…………」
「_____」
互いが互いに驚き情けない喉の掠れた音だけ発した。
何とも感動の無い、静かな、約一ヶ月ぶりの再開であった。
重い空気のなか、部屋に招き入れられたAは以前のようにルクとの距離を埋めるのが正解なのか分からず、扉の前から動けずにいた。
入室の許しはあったが、自由に振る舞って良い許しはない。
なにより、重苦しいこの空気が口を開くことも許さなかった。
それもそうだ、鍵がかかっていなかったとはいえ言い付けを守らず、勝手に部屋を出てきた。
その事を彼に問われれば弁解の余地はない。
だが、ルクにはそれを追及する意思はなかったらしい。
「お前に、話さないといけないことがある」
そう彼は唐突に前置きをした。
かなり長くなると踏んだのか、ドアの前で動けずにいたAを手招きし、ソファに座らせる。
寒さに鈍感な吸血鬼ではあるが、人間と長らく過ごしてきた彼は暖炉すらないこの部屋に薄着の彼女を留まらせることがどう言うことかは理解していた。
自身のコートを薄手の寝間着の上に羽織らせてどこから持ってきたのかよく分からないブランケットを手渡した。
Aがそれらを身に纏い、落ち着いたことでルクは向かいのソファに腰を落ち着ける。
ようやくこうして顔を会わせることが叶ったというのに、妙にルクが遠い存在に思える。
「____寒く、ないか」
彼にしては歯切れの悪い言葉に、Aは頷きながらも、彼がこれから話すことはとても言い出しにくい話題なのだろうと察した。
それから暫く無言の居心地の悪い沈黙があって、彼はようやく意を決したように口を開いた。
少しルクにしては覇気の無い、抑揚のない、表情のない声。
例えるなら他の吸血鬼のような事務的な口調が近いだろう。
「お前を日本から連れてきたときから、隠してたことがある」
ルクから発せられたのはやはり抑揚のない声だった。
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こんぺいとう(プロフ) - ぽっぽさん» ありがとうございます!新しいものはあと一週間くらいで公開できるかと思いますので、もう少しお待ち下さい〜! (2021年1月21日 20時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぽ(プロフ) - おもしろくて勢いよく読みました!!!続きが楽しみです! (2021年1月20日 9時) (レス) id: f5136f3fcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年11月8日 21時