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ルクは気だるげにそれに応じようと短く、入れ。という言葉を発したが、ドアの前に立っ立った気配はドア前に佇むだけだった。
もう一度、拳が木のドアを打つ音が二回続く。
入れと促してもドアを開けない来客は誰だ。
しかもこんな夜更けに。
「入れって」
煩わしそうなルクの言葉に反応して、また木を打つ音が二回続く。
まるでルクの反応を喜んでいるかのようだ。
当然、彼はそれをいぶかしむ。
敵意を持たないのは分かるが、わざわざ第五位始祖の部屋まできてノックをし続けるのもおかしな話である。
この音を立てる犯人への苛立ちが募る一方だ。
しかたなしに犯人の人相を暴くため、大股でドアまで進み、ノブへ手をかけた。
時は少し遡り、場所を変えてAの自室。
「A様、寒くはございませんか。必要であれば毛布も用意させますが」
「大丈夫」
「承知しました。では、おやすみなさいませ」
メイドのように世話を焼く吸血鬼が部屋に灯る光を奪って退出していった。
唐突に光を奪われたことで目が闇にうまく順応せず、目を開けていようとも、閉じると同様の闇が視界に広がっている。
闇だ。
孤独でひどく静かな闇。
うるさいくらいの闇を身体で感じながら、Aは鼻先まで布団を引き上げた。
ここ二、三日は冷え込みが続いている。
もしかしたらこのまま厳しい冬を迎えるのではなかろうかというほどだ。
顔とはいえ、布団から出てる部分は酷く冷える。
鼻先も同様だ。
布団に潜っていたお陰で比較的温かな指先で鼻に触れると、やはり冷たかった。
夜は静かな分、心まで落ち着くのか重く抱えた激情は都合良く鳴りを潜めた。
仰向けだった体を倒したAはルクと眠っていた日々と同じように身体を折り畳み、丸くなる。
これが眠るに一番落ち着く体勢であった。
だが、待てど暮らせど眠気と言うものが来ず、逆に目が冴えるばかりで困惑した。
先ほどまで闇一色だった景色は目が闇に慣れたことで少し形を変えている。
だいぶここでの生活に慣れ、こじんまりとしたこの部屋も見慣れてきた。
何となく落ち着かなくて眠れないのは決して気のせいではない。
普段はある、決定的なものがないという不安と少しの期待から心が落ち着かないのだ。
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こんぺいとう(プロフ) - ぽっぽさん» ありがとうございます!新しいものはあと一週間くらいで公開できるかと思いますので、もう少しお待ち下さい〜! (2021年1月21日 20時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぽ(プロフ) - おもしろくて勢いよく読みました!!!続きが楽しみです! (2021年1月20日 9時) (レス) id: f5136f3fcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年11月8日 21時