52 ページ2
「わっ…！」
ウルドがノブに手を掛けてドアを引くとちょうど今しがた探そうとしていた人物が立っていたらしく、彼は声を上げた。
手間が省けたと言わんばかりにため息をつき、目的の人物がここに居ることを示すと、彼は驚きもせず困ったように苦笑いした。
いつもならウルドの小言が口から滑り落ちる前に人間の娘を小脇に抱えてすぐさま退散する所が、やはり今日は何かが可笑しい。
「あーえっと…何か言ってましたかA」
「いや」
「そうですか…」
やけにホッとしたような表情を見せるルク。
ウルドは顔をしかめた。
なんだか面倒なことに片足を突っ込んでしまった気がする。
「早く連れて帰れ。私に子守りまでさせる気か？」
「そうしたいのは山々なんですけどー…」
「お前が迎えに来なかった数時間、部屋の隅でうずくまって寝ていたが？」
「…まじか」
ウルドの肩越しにカウチで眠るAをちらりと見、彼は顔を歪めた。
人間にとっては少し寒さがきつくなってくる季節だ。
暑さや寒さを感じない吸血鬼にとってはあまり頓着する必要はないが、人間のAは違う。
ウルドよりも遥かに人間と過ごしてきた時が長いルクはすぐさまその事の重大さを認識したようだ。
ウルドを押しのけて部屋に踏み入り、Aの頬に触れる。
その事を咎めもせず、ウルドは早く彼女を連れていってくれと言わんばかりにため息をもう一度吐き出した。
少し頬が冷たい。
ウルドがジャケットを被せていたおかげか手は冷えていないが、部屋の隅で丸くなっていたならば相当体は冷えていたことだろう。
彼女が転がり込んだのがウルドの部屋で良かった。
Aがルクから逃げるように部屋を飛び出してしまったのは数時間前。
おそらく駆け出したそのままの足でウルドの部屋へとやって来たのだろう。
他ならぬ原因はルクだった。
Aの寝顔を見ていると柔らかな感触を唇に思い出す。
彼女は幸いにも酷く嫌がる様子を見せなかったが、それもそれで問題だ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 58人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こんぺいとう(プロフ) - ぽっぽさん» ありがとうございます！新しいものはあと一週間くらいで公開できるかと思いますので、もう少しお待ち下さい〜！ (2021年1月21日 20時) (
レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ぽっぽ(プロフ) - おもしろくて勢いよく読みました！！！続きが楽しみです！ (2021年1月20日 9時) (レス) id: f5136f3fcb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こんぺいとー | 作成日時：2020年11月8日 21時
