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頭を撫でた手をそのまま、輪郭をなぞるようにして頬に触れる。
くすぐったいのかAは少しだけ顎を引いて目を細めた。
その反応が少し愛らしく感じ、胸に温かな感情が去来する。
ルクにはよく分からない、名前を付けがたいような、名前をまだ知らないような温かで心地よい感情だ。
ルクは未だAを組み敷いているような体制のままだが、片手で彼女に触れることをやめようとはしなかった。
美しい輝きを放つ瞳を見つめ、愛でるように手を這わす。
それをどのくらいの時間続けていたか、夢中な彼には把握できていなかったが、Aが照れて目を逸らすには十分なほどの時間であった。
「なんだよ、逃げんなって」
Aが不満そうに声をあげた彼に仕方なく視線を戻すと再びルビーのような深く美しい赤と視線が絡んだ。
頬に手を添えたまま、今度は額同士を重ねるルク。
結局のところ、離れられないのはルクもAと同様であった。
どんなに吸血衝動が苦しかろうが、どんなにAが無意識の誘惑を繰り返そうが、彼女を掴んで離さないのはAが頑なにルクの側を離れようとしないことと何ら変わりがないのだ。
距離をこうして詰める度にAの面白い反応が見られると表情や感情といったものに疎い事を忘れ楽しそうに笑うことができる。
Aと過ごしていると自然に喜怒哀楽が生まれる。
心を失って乏しくなっていた感情表現も思い出すことが出来る。
吸血鬼からすればまだまだ子供でしかない彼女だが、自身より多くのものを持っていて、それを分け与えてくれるのだ。
嬉しくてたまらなかった。
こういったとき、どういう言葉で形容すればいいのか検討が付かないルクはとりあえず感情に従って行動し、その感情を表現した。
その一つが手で触れることであり、額で体温を感じることであり、心のままに笑うことである。
「ルク…近いってば」
少し照れたような声音で訴えるAの言葉を聞き流し、その反応さえも嬉しそうに目を細めた。
そして、甘えるかのように二、三回額を擦り付けるように顔を動かしたルクはそのままの勢いで一つの口づけをAへと贈った。
鼻先がすれ違い、その下にある小さく血色のいい色の唇とルクのものが柔らかく触れる。
Aが息を詰める気配を感じたが、ルクは慈しむようについばむかのような行為を止めることなく繰り返した。
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こんぺいとう(プロフ) - RiAさん» ありがとうございますー!この頃更新が遅くなって日付を跨ぐこともしばしばですが1日1更新は必ず守っていきますので、どうぞよろしくお願いします♪ (2020年10月2日 19時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
RiA(プロフ) - こんぺいとう様の作品全部大好きです(><)ずっと応援してます!更新楽しみにしてます! (2020年10月1日 11時) (レス) id: 5404c24946 (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとう(プロフ) - ありがとうございます!ちょっぴり切なくてシリアスですが、今後もお付き合いくださいー! (2020年9月30日 21時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ひなどり。(プロフ) - ストーリー凝っててすきです…応援してます (2020年9月30日 19時) (レス) id: b8745ce36d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年9月24日 22時