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今しかない。
信じられないものを見るような表情で動きを止めた吸血鬼の手から逃れるため、意を決して動かない体を無理矢理に動かし、走ろうとした。
だが、吸血鬼はそれに目敏く気づき、真っ白な手袋が薄汚れた腕を掴む。
そして、吸血鬼が喉奥で掠れるような音と共に蚊の鳴くような声で発したのはAが唯一親から貰ったもの。
____名前だった。
「どうして、私の名前……！」
この時、はじめてまともに吸血鬼を見上げた。
そして息を飲む。
男の姿をした吸血鬼は少し優しそうな雰囲気をまとい、茶の長い前髪を揺らしていた。
今まで散々と怯え見上げてきた吸血鬼独特の赤い瞳には狂気があったが、Aは吸血鬼にきては珍しく狂気を感じない瞳を持つ者に出会った。
目の前の吸血鬼は何かとても嬉しそうに瞳を細め、安らいでいるかのように穏やかな色をしていたのだ。
そのなかで、悲痛なまでの感情を読み取ったAは逃げようとしていた姿勢を改める。
彼は自身を害する気が無いと、理由のない直感があったからだ。
腕を掴む手が小刻みに震えていた。
まるで人間のような反応をする吸血鬼だと思った。
唐突に目の前に現れたイメージとはかけ離れる吸血鬼にどうすべきか迷っていると、彼はあろうことかAを強く掻き抱いた。
少し強引でも優しく包み込まれるようなしっかりとした腕の中はとても居心地が良く安心する。
こんな薄汚い人間の子供に何を思っているのかはわからなかったが、好きにさせてあげよう、そう思った。
突然、Aの元へ現れたキ・ルクと名乗る吸血鬼は日本ではなく、ロシアを拠点とする吸血鬼だと聞いた。
たまたま所用で遣いに出た先で私を見つけたらしい。
ルクは私が聞けばなんでも語ってくれる。
不思議な感覚だった。
本来であれば人間に興味無さげに振る舞うはずの吸血鬼が人間の興味を満たす為の質問に卑下することなく答えてくれるのだ。
そのあと、大きな手に手を取られゆっくり階段を登った。
時々様子を伺うかのような視線を寄越して、歩調が早すぎないか、歩幅は大きすぎないか確認しているような様子が見受けられた。
彼が恐ろしくはなかったが、こんなにも初めて会う吸血鬼に丁重に扱われる理由はいまいちわからない。
こうして私はサングィネムの地下都市・最下層に位置する、家畜とされる人間たちの生活拠点から初めて吸血鬼が作った街に足を踏み入れた。
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こんぺいとう(プロフ) - RiAさん» ありがとうございますー！この頃更新が遅くなって日付を跨ぐこともしばしばですが１日１更新は必ず守っていきますので、どうぞよろしくお願いします♪ (2020年10月2日 19時) (
レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
RiA(プロフ) - こんぺいとう様の作品全部大好きです(＞＜)ずっと応援してます！更新楽しみにしてます！ (2020年10月1日 11時) (レス) id: 5404c24946 (このIDを非表示/違反報告)
こんぺいとう(プロフ) - ありがとうございます！ちょっぴり切なくてシリアスですが、今後もお付き合いくださいー！ (2020年9月30日 21時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
ひなどり。(プロフ) - ストーリー凝っててすきです…応援してます (2020年9月30日 19時) (レス) id: b8745ce36d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こんぺいとー | 作成日時：2020年9月24日 22時
