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「わっ…!つめたっ…」
泥水が全身に降りかかったので当然スーツも汚れてしまってスーツごしに泥水のじっとりとした感触が伝わってきてかなり気持ち悪い。
そして困ったことがもう一つ。
「電車どうしよう…」
そう、本来ならこれから電車に乗って帰宅するつもりでいたのだが、正直こんな格好人目に晒したくない。かといってタクシーも高いし…。
うーん、と悩んでみるも、結局他にいい案が思いつかず、仕方ないから今日はタクシーを使おう、と決めたその時だった。
背後から、懐かしい人の声が聞こえたのは。
「……A?」
──その声にハッとして振り向くと、驚いたように私の名前を呼ぶ天月くんと、目が合った。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「あー、そーゆーことね!いや〜災難だったね〜」
「ま、まあね、あはは…」
…どうして私は今彼の部屋にいるのだろう。どうして私は彼の服を着ているのだろう。
ほんの数十分前、天月くんと偶然再会すると、動揺のあまり何も話せない私をよそに、私のこのひどい有様に「どうしたのそれ!?」と真っ先に駆け寄ってくれ、僕の家すぐそこだから、と彼に言われるまま彼に着いてきてしまった。
彼の家に着くとすぐに着替えの部屋着を貸してくれたので、それをありがたく着て、今に至る。
(…いやおかしくない!?)
普通こんなあっさり人を部屋に入れる!?いやおかしいのは私?皆こんなこと平気でやってんの!?
…ダメだ、最近の若い人が分からない。いや私も若い人なんだけど。なんなら天月くんと同い年だけど。
「なーに顔青くしちゃってんの?はい、ココアどーぞ」
「えっいや、えっと……ありがとう」
彼の言葉に色々言いたくなったがココアを受け取ってしまったのでとりあえず胸の内に収め、お礼を言うといーえ、とニコッと笑った。
そしてリビングの奥、つまりはベランダ側に置かれた一人用ソファに座る私に向き合うように玄関側に置かれたこれまた一人用のソファにマグカップを持った天月くんが腰を落とした。
「それにしてもほんと久しぶりだよね〜高校以来?」
「う、うん…多分それぐらい」
数年越しの再会で、しかも自分をフった相手だというのに天月くんはあの頃と変わらないまま、いや、まるで何事も無かったかのように私に接している。
(…気まずいのは、私だけ?)
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sera(プロフ) - 冬芽さん» 代表で主催の私が返信させて頂きます。読んで下さっただけでなくコメントまでありがとうございます!ぜひ気になった作者様の作品を読みにいってみてください…! (2019年4月1日 19時) (レス) id: 28f01b04a4 (このIDを非表示/違反報告)
冬芽(プロフ) - どのお話も素敵でした。楽しんでサクサクと読ませていただきました。素晴らしいコラボをありがとうございました。 (2019年4月1日 11時) (レス) id: 781e1744d9 (このIDを非表示/違反報告)
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