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俺のワンマンライブツアーファイナル公演、最後の曲を歌い上げ腕をだらりと下げる。
ばちりと目が合うのは、別れてからもうすぐ1年経つ元カノ。今でも大好きで、忘れられない人。
A、まあた綺麗になって、どんだけ俺を惚れさせたら満足なん?
そんなことを思いながら手を振ると、彼女の周りのリスナーが悲鳴にも似た歓声を上げる。
歌い手は特定の女を作ってはいけない。
いつの間にか自分の中で出来上がってしまったその言葉が、胸の中で重く響く。
でも、そんなものとも今日でお別れ。
「みんな、今日はほんまにありがとう!…最後に、俺から大事な話があります」
そう言うと、徐々に静まっていく歓声と、大きくなるリスナーの不安。
彼女は察したのか、俺と目を合わせて微笑んでくれた。
「俺、あほの坂田という歌い手は引退します。今までありがとうございました!」
啜り泣く声、疑問をぶつける声、色んな音が聞こえた。
ごめんなみんな。ここまで追いかけてくれたのに、こんな俺の我儘で捨ててもうて。
やってみたかった、マイクをステージに置くのをして、俺はステージから退いた。
楽しかったなあ、今までの歌い手人生。これからどないしよ、また看護師の仕事でもするかなぁ。
無言で俺を見送るバンドメンバーや、スタッフ。そして歌い手のみんな。
ごめん。ごめんな。
楽屋に入り、しばらくすると控えめにノック音がした。
返事をし、振り返るとそこには彼女がいた。
「……坂田くん、なんで…なんで、」
「Aが好きやから、今でも」
「…でも、私は…」
「Aも俺のこと、好きやろ?」
彼女の小さな両手を、俺の両手で包むと彼女は泣いてしまった。
泣きながら、好きだよ、とうわ言のように呟いた。
好き、好きだよ。嫌いなわけないじゃんか。
そんなことを言った。
「…嘘でも、めっちゃ傷ついたんやからな?ったく、お仕置きしなあかんなあ」
「…エイプリールフールだったもん、あの日」
「え?」
「別れよって言った日。…坂田くんなら気づいてくれるかもって、思ってたのになあ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべ、そんなことを言う。
その笑みに見惚れていると、彼女はちゅ、とキスをして抱きしめた。
-fin-
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sera(プロフ) - 冬芽さん» 代表で主催の私が返信させて頂きます。読んで下さっただけでなくコメントまでありがとうございます!ぜひ気になった作者様の作品を読みにいってみてください…! (2019年4月1日 19時) (レス) id: 28f01b04a4 (このIDを非表示/違反報告)
冬芽(プロフ) - どのお話も素敵でした。楽しんでサクサクと読ませていただきました。素晴らしいコラボをありがとうございました。 (2019年4月1日 11時) (レス) id: 781e1744d9 (このIDを非表示/違反報告)
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