07.特別じゃない ページ7
あれから、わたしはバーソロミューさんを避けている。
どこかで彼の声が聞こえたとき。視界に彼の姿が映ったとき。慌ただしく背を向けて来た道を戻る。
あまりにもあからさまな態度に、申し訳なさも感じるが仕方ない。わたしにとっては死活問題なのだ。どうか許してほしい。
最初は追いかけてきたバーソロミューさんだったが「今は忙しいので失礼します」とか「ドクターに呼ばれているので失礼します」などと言い訳をして逃げてしまえば、いつのまにか彼に話しかけられる回数は減っていった。
正直に言えば、ものすごく寂しい。彼と過ごした時間はとても温かく楽しかった。しかし今ではそれを思い出すほど、彼に近づくことが怖くなる。
バーソロミューさんが好きだ。この思いに気づかれたらどうしよう。彼に拒絶されてしまったら、少しずつ積み上げて出来たこの関係が崩れてしまったら、どうすればいいのだろう。もしもそんな時が訪れたら、わたしは──。
「心外だな、マスター。私はただ彼女の話を聞こうとしただけじゃないか」
「マシュを口説こうだなんて百年早い!!」
「せ、先輩! 落ち着いてください!」
カルデアの長い廊下の先でマスター──立香ちゃんの声が響いた。立香ちゃんの隣には、彼女を宥めるマシュちゃんがいる。そして、ここ数日わたしを悩ませている彼の姿もあった。
「バーソロミューの性癖はわかってるけどさ、節度を守るようにって言ったじゃん!」
「たしかにマシュ・キリエライトはこの上なく魅力的なメカクレ系女子だが……」
「ほらー!」
それ以上、話を聞いていられなかった。いつもと同じように早足で来た道を戻る。
あの日、バーソロミューさんに見つめられて、メカクレ姿になってほしいと懇願されたとき、わたしは期待してしまったのだ。
彼はわたしに価値を見出している。『A』という一個人を求めている、と。
もちろんそれは誤りであった。彼はメカクレ系の子なら誰だっていいのだ。わたしのそういう姿を見たいのではない。新しい子なら誰でも好むだろう。
たとえわたしがずっと避けていようと、それは彼にとって取るに足らないことなのだ。
じわりと目頭が熱くなった。しかしここで泣いてしまえば、もっと惨めになってしまう。そんな気がする。きつく噛み締めた唇は鉄の味がした。
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星良(プロフ) - 爆死★さん» ありがとうございますッ!!!!! (2020年11月14日 19時) (レス) id: ca2b877203 (このIDを非表示/違反報告)
爆死★ - スッッッキ!!!!(スッッッキ!!!!) (2020年11月10日 17時) (レス) id: da8da72c3c (このIDを非表示/違反報告)
星良(プロフ) - 王のお話さん» ありがとうございます!そう言ってもらえて嬉しいです!初めてのコメントで感動しました……貴方のそのお言葉がとても励みになります、本当にありがとうございます!!(ただいま新作を準備しております。お楽しみに!) (2019年8月23日 11時) (レス) id: fa3e8c95cc (このIDを非表示/違反報告)
王のお話 - 突然のコメント失礼します。率直に言いますととても感動しました!最初から最後まで話にとても夢中になりました!小説を読んでこんなに気持ちが昂ぶったのは久々で、とても楽しかったです!もし別作品を書く予定がありましたら是非読ませてください! (2019年8月23日 2時) (レス) id: d7d108a59e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星良 | 作成日時:2019年8月13日 13時