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「知らない間に、随分大きくなったんだね」
「え……えぇ…?」
「この先きっと迷うこともあるはずさ。けれど近くに居なくとも必ず俺は居るからね。帰る場所があることをどうか忘れないで」
「……うん。伊野ちゃんもね」
困惑していた裕翔くんが、そっと伊野ちゃんを抱き締めかえす。
「ありがとう、裕翔……行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
するり、と二人の手が解かれる。
心なしか少しだけ涙目の伊野ちゃんは、名残惜しそうに裕翔くんを見つめた。
そうして伊野ちゃんの隣には高木さんが、裕翔くんの隣には山田さんと知念さんが立った。
止まることは、許されない。
伊野ちゃんの強い言葉が何度も脳裏によぎる。
あやかしは死なない代わりに、止まることが死と同義。
ずっと進み続けなければならない。
たとえ辛くとも、苦しくとも。
時間は例外なくずっと進み続ける。
裕翔くんの持つ懐中時計は、一秒たりとも止まることなく針を進める。
それは現実を生きる人間にも例外はない。
「今はまだ妖術も満足に使えないだろうけれど、『共属の術』を持つ者同士は互いに居場所が分かるのさ。いずれ、裕翔にも使えるようになる」
「本当?」
「もちろん。それに『共属の術』を持つ者同士は『在処への導き』という術が使えるからね」
そう言うと伊野ちゃんは私の方へと踏み出す。
呆気に取られている私の両手が伊野ちゃんの手に包み込まれた。
「お互いに居場所が分かる……つまり、帰るべき場所がはっきりと分かるのさ。だから、ようやく元の世界に返してあげられる」
「……まさか、」
「Aちゃん。君には本当に迷惑をかけてしまったね」
「それを言うなら私の方が、」
「君がいなかったら、今もずっと愚かなあやかしのままだったかもしれない。本当に、ありがとう」
私は何も、そう言いかけた言葉がのどに詰まる。
代わりに次に声を上げたら、声にならない嗚咽が堰を切って溢れ出るかもしれない。
「……私のほうこそ、楽しい思い出をたくさんありがとう」
結局言いたいことはたくさんあったのに、出て来たのはそれだけだった。
「ほんの少しの間だったけれど、楽しかったのはこちらも同じさ」
優しい伊野ちゃんの手がじわりと温かく感じた。
「悩むことも沢山あるだろうけれど、俺はいつでも見守っているよ。どうか、元気で──」
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