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「優しくなんかないよ。俺はただ流れに身を任せているだけ。今も昔もね」
「薮が昔言っていたように、妖力の差だけで格付けするなら、高木はとっくに俺を殺していてもおかしくない頃合いだと思ったのだけれど」
「……つまり?」
「以前の底なしの妖力を持つ俺ならともかく、今は裕翔の身体なくして存在できない俺なんて、簡単に殺してしまえるでしょう?」
「どうして俺が伊野尾くんを殺さなきゃいけないの?」
「今まで沢山面倒ごとに付き合ってくれていたのは、俺の妖力を恐れてだと思っていたのだけれど……」
きょとん、と首を傾げる仕草。
わざと態度に出すのは、彼が人間として振る舞ってきた頃からの癖なのかもしれない。
「一千年ほど前の俺なら、確かにそうしていたかもしれないね。けれど、俺も伊野尾くんと同じだよ」
「……?」
「あれほど醜いと思っていたはずの人間に、肩入れしてしまっていたんだよ。伊野尾くんが、ずっと裕翔に肩入れしていたのと同じくね」
「……高木、」
「だから伊野尾くんの気持ちに乗っただけ。俺は力の差だけで付き従う程、弱いあやかしじゃないよ」
「それは頼もしいね」
「だからどんな伊野尾くんでも変わらないよ。後にも先にも、俺の相棒は伊野尾くんしかいない」
「……もしかしたら俺は、人間を侮っていたのかもしれないね。妖力も持たず、出来ることも限られているけれど、たったの短い寿命の中に沢山のものを遺す」
「そうだね。家族だとか人と人の繋がりだとか、馬鹿馬鹿しいって思っていたけれど、その気持ちが何となく俺にも分かる気がする」
そう言って高木さんは笑う。
その笑みは、今まで見て来たたくさんの笑顔の中で一番輝いていて。
彼等が今まで生きて来た年月の中で、恐らく一番人間らしいものだったのだと思う。
「さあ、そろそろ出発だ」
「うん、何だか緊張するね」
「先頭は俺と裕翔で務めるさ。高木は一番後列を頼めるかい?」
「もちろん」
「ああ、それから……」
「うん?」
伊野ちゃんは妖力が灯った手持ち提灯のうち、一つを高木さんに手渡した。
そうして、もう一つを自分の手に持つ。
真っ直ぐに見つめた瞳。
真剣な表情。
伊野ちゃんは、高木さんにこう言った。
「この大行進が終わったら、俺と一緒に街を出て行かないかい?」
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