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「ただいま」

「ただいまー」



誰もいない店の中に、私たちの声が木霊した。
正式に言うと、ここは私の家でも裕翔くんの家でもない。
だけど、不意に出たのはただいまという言葉だった。



いつもキッチンからはいい匂いがして、伊野ちゃんがお帰りって笑う。
その温かかった光景も、今ではすっかり冷めきってしまった。


つい昨日までは当たり前にあった光景が、一晩にして失われてしまった。
あの温もりが、たった一晩のうちに消えてしまった。



「俺はここで待ってるから、ゆっくり片付けてきてね」

「ありがとう、裕翔くん」



私はもう慣れた二階へと駆けあがる。
私の荷物と言えば、知念さんから貰った服と、最初に高木さんが用意してくれた一式。

それから、元の世界で身に着けていた制服と通学鞄だった。



服と一緒に制服を大きい鞄に詰め込んで、使っていた布団を綺麗に畳む。
大きく深呼吸をして部屋の中を見渡す。
そしてゆっくりと階下へと下る。




「ごめんね、お待たせ……っ!?」



ドサッと音を立てて、荷物が床に落ちる。
そこに広がる光景が理解できなくて、言葉が出ない。



「裕翔くん!」



高木さんのコレクションが飾られている壁際。
その真下に倒れ込むように、ぐったりしている裕翔くんの姿。

何で?さっきまであんなに元気だったのに…!



「ごめん……何だか、急に……」

「大丈夫?誰かに知らせなきゃ…!」

「ううん、ちょっと落ち着いてきたかも……急に力が入らなくなって」

「貧血…?にしては突然すぎるよね……」

「ごめん、少しだけ休憩してもいい?」

「そんなの当然だよ、山田さんたちに報告してこようか?」

「ううん、大丈夫。本当に平気だから」




立ち眩み……のようなものならいいけれど。
本人もこれでいいと言うのだから、本当に大丈夫なのだろう。
それでも不安だと思うのは、心配だと思うのは、誰かに似て考えすぎなのかもしれない。



壁際に飾られた世界各地の珍しいものコレクションは、まるで統一性がない。
けれど私の見たことの無い世界が、この壁一面にぎゅっと濃縮されている。
それでもこんなにたくさんあるコレクションのどこにも属さない私は、これからどうなるのだろう。



元の世界では、みんな今頃どうしているのだろう。
私の存在は、一体どうなってしまっているのだろう。



考えても仕方ないのに、考えずにはいられなかった。

星霜→←・



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作者名:天凪 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2021年5月2日 23時

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