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「大貴。僕には何の話か分からない」
いつの間にそこに居たのか、椅子に座ってお茶を飲んでいる知念さんが声を上げる。
ふわりと揺れる、左手首の飾り紐がやけに印象的だった。
「いや……裕翔は、浅葱と会ったことはある?」
「え?いやぁ……俺があそこを出てから伊野ちゃんが飼い始めた猫だし、存在は知ってたけど……」
「Aちゃんは、浅葱が外で放し飼いにされていることを知っていた?」
「え?浅葱はいつも『たまゆら亭』の中にしか居なかったよ?外に出て行くところなんて見たことないし……」
「そう?俺はここに呼ばれて庭の手入れをしている時、よく見かけたけど?」
ニッと大ちゃんの口角が不敵に上がる。
それが何を意味しているかなんて、答えを聞かなくても分かった。
「ふふ、時々浅葱を通じて裕翔の様子を盗み見るなんて……なんて過保護なんだろうね」
山田さんがそう言って笑う。
裕翔くんはそんな山田さんに顔を顰める。
「あやかしは、よほど強い妖力を持たない限り、見たことの無いものに姿を変えるなんて出来ないんだ」
「じゃあ、私が見た浅葱の化け物は、」
「当然、浅葱が店の外に出ていないと姿を見ることは出来なかっただろうからね」
声にならない驚きが胸の中で渦巻いた。
じゃあ、伊野ちゃんは自分が関わらないようにしながらも、ずっと裕翔くんの傍に居たってこと?
「……そんなの、今更…」
裕翔くんがぎゅっと浅葱を抱きしめる。
今の裕翔くんには、浅葱とあの懐中時計が伊野ちゃんから残された形見なのだろう。
「裕翔、今から少し酷な事を言うけれど、良い?」
「……何?」
「伊野ちゃんのことについて、裕翔が色々思うことああるのは確かだと思う」
「うん」
「俺たちにとって、人間なんて犬や猫と同じようなものなんだ。言葉が通じるか通じないかの違いがあるだけで」
「……」
「でもね、これだけはちゃんと分かってほしいんだ。伊野ちゃんは決して裕翔のことを他の人間と同じだとは思ってなかったよ」
その言葉を聞いた途端、裕翔くんの目から涙が零れた。
伊野ちゃんの願いは、ちゃんと裕翔くんに届いたんだよ。
「……俺、結局伊野ちゃんに何も伝えられなかった。俺はこんなにたくさんのものを貰ったのに」
「ちゃんと伝わってるよ。その証拠に、今でも裕翔から伊野ちゃんの妖気を感じるんだ」
「え?」
「きっと、最期の時までずっと傍に居てくれるよ」
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