夢境 ページ20
冷たい雨の降る音だけが耳に焼き付く。
一人待つ神社は、本当に心細くて気持ちが先に折れてしまいそうだった。
──裕翔なら、もうすぐ知念が来るはずだから。
そう言ってAちゃんの手を取って行ってしまった。
俺の居場所は、伊野ちゃんの傍にはない。
分かっていた。
あやかしにとって、人間なんて所詮は時間つぶしのための玩具と同様。
自分が、たまたま伊野ちゃんと出会っただけ。
伊野ちゃんや、やまにとって俺はただ長い年月を生きている間にたまたま出会っただけの人間。
全部わかっていたはずなのに。
それでも居場所がない俺は、どこにも行くことができない。
もし俺に、居場所があったなら今すぐここを飛び出すことが出来る。
けれど、探してみてもやっぱり居場所なんてどこにもない。
Aちゃんみたいに、いっそ違う世界へ行くことが出来るなら、そこには俺の居場所はあるのかもしれない。
そんな寂しいだけの感情に心を押しつぶされて、我慢できなかった涙がようやく頬を伝う。
本当は寂しいって、一緒に居たいって、そう言いたかった。
──この子にはね、正しい最期を迎えてほしかったのさ。
正しい最期って何？
人間とあやかしは、出会っちゃいけなかったって。
それなら、もう俺は後戻りできない。
あやかしと出会ってしまった俺は、既に正しくないってこと？
みんなの言う『家族』や『愛』なんてものは、限られた人間にしか与えられない不平等な境遇だ。
「……っ」
雨の冷たさに反して、溢れた涙は温かかった。
と、その時。
誰かの足音が聞こえて、咄嗟に顔を背けて涙を拭う。
走る足音はすぐ後ろまで迫って、涙を拭き終えた顔を向けると、そこに居たのは
「裕翔……！」
今一番会いたくて、だけど一番会いたくない人だった。
「……え、伊野ちゃん、何で……」
「心配で……ああ、こんなに手が冷たい」
ぎゅっと掴まれた両手からじんわりと伝わる熱。
伊野ちゃんにこうして手を握ってもらったのは、幼い頃が最後だったはずだ。
「え、待って……Aちゃんは？一緒だったんじゃ…？」
「一緒に店に戻ったんだけど、雨が強くなるばかりで心配だったから……本当に、申し訳ないことをしたね……」
「……」
まだ少しだけ切れている息を整えながら紡がれる言葉の一つ一つが胸の氷を溶かしていく。
両手の指先は、また熱を取り戻した。
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