検索窓
今日:4 hit、昨日:12 hit、合計:13,159 hit

ページ15

「伊野ちゃんは、僕を穢れた存在だと思う?」

「いいや、そんな風に思ったことはないさ」

「……僕は、かんざしの付喪神……それも、汚らわしい街の」




ああ、と目を逸らす。
高木が見つけたという収集品のかんざしは、確か花街のものだったと聞く。
知念の言う汚らわしいとは、きっとそこに巣食う人間の感情の話だろう。




知念がそっと懐から取り出したのは、煌びやかで細かな装飾と華美な色彩の鮮やかなかんざしだった。




「これが僕の本体。僕はある職人の手で作られた唯一無二の存在だった」

「ああ、前に見せてもらったことがあったね。いつ見ても綺麗だ」

「……世界に一つだけの贈り物だった。僕は誰かの飾りでいられることが幸せだった。なのに……」





力強くかんざしを握りしめる手。
震える手は、やるせなさを物語る。




「裏切ったんだ。鋭利なかんざし(ぼく)は、初めて人の血を吸った」

「……その時、思わなかったかい?人間がいかに卑しい生き物か」

「そうだね……でも怖くて、何よりやるせなかった。身体があれば、守ることができたのかなって」

「なるほど。つまり、それは今でも心残りなんだね?」




黙って俯いたまま、知念は頷いた。
俺にとっての人間と、知念にとっての人間は違う。


そもそも、あやかしと付喪神だ。
彼は人間に寄り添いたい性質のものらしい。




沈黙の隙間を雨の音が縫う。
その音に混じって、足音が聞こえた。
はっとして振り返ると、山田が立っていた。



「山田!どうだった?」

「大丈夫。落ち着いたよ」



その言葉を聞くと同時に、安堵で力が抜ける。
ふらつく体を山田と知念に支えられた。



「まだ詳しいことはきちんと診ないと分からないけど、とりあえず落ち着いたから命の心配はいらないよ」

「ありがとう……本当に、ありがとう」

「それにしても、一体何が?」

「……あまりにも酷い熱だったから、体温を下げようとしたんだ。けれど、弱った幼い人間の身体に妖力は毒だったのさ……」

「ああ、なるほど……道理で伊野ちゃんの妖力を感じる訳だ」



その言葉に全身の血が震える感覚に陥った。
今、俺の妖力と言った…?




「……山田、知念。頼みがあるんだ」

「え?」

「……このまま裕翔を、ここに置いてくれないかい?」

「そんな、待ってよ!」

「これ以上一緒に居るのは危険なんだよ。そして、もう二度と、俺の前に現れないで」

桎梏→←・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (57 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
79人がお気に入り
設定タグ:Hey!Say!JUMP
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:天凪 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2021年5月2日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。