心恋 ページ13
──死ぬ。死んでしまう。
助けて、誰か助けて!
初めての感情に体中を支配されながら、一目散に走った。
ただ腕の中で荒い呼吸を繰り返す小さな命が枯れてしまわぬよう。
ただそれだけの為に、ひたすら走り抜ける。
大雨の中、傘もささずに走る俺を周りの人間達がどんな目で見ているかなんて気にする余裕などなかった。
それでも腕の中のこの子だけは濡れてしまわない様に匿いながら。
妖術を使えば、『彼』の元へは一瞬で辿り着けただろう。
けれどそれをしなかったのは、もうこの幼い体に少しでも負担を与えれば簡単にその命を刈り取ってしまうことが分かっていたから。
何度も後悔した。
何度も心の中で謝った。
この子と出会ったのが、俺じゃなければ。
もっと優しい人間と出会えていたら……。
……駄目だ、人間は汚い生き物だ!
……なら、他にどうすれば良かったんだ!!
「……山田!!」
勢いよく扉を開け、いつになく大声でその名を呼ぶ。
廊下の奥から足音が聞こえてくるのが分かった。
「どうしたの伊野ちゃん、傘もささないで……」
「裕翔が……!」
腕の中でぐったりとしたまま動かない子供を差し出すと、山田は途端に表情を変える。
「……これは、一体…」
「熱が出て、体温を下げようとしたら……こんな……!」
「……知念!今すぐ布を水で冷やして!それから着替えの準備も」
何事かと顔を覗かせていた知念は、突然の指示に驚きながらも颯爽と台所へと消えてゆく。
俺は裕翔を山田に託したまま、玄関で呆然とすることしか出来なかった。
「……伊野ちゃん」
目の前に立つ知念がそっと手ぬぐいと着替えを差し出す。
自分の服が雨で濡れていることなど、どうでも良かったのに。
断る言葉もなく、それをそっと受け取る。
人間のように、みっともない涙だけがただ一途に頬を伝った。
「裕翔なら、涼介が看ているから安心して……こっち」
袖を引かれて部屋の中に案内される。
そこで用意された服に着替えて、髪を拭った。
「……ありがとう。取り乱してしまって、申し訳なかったね」
「取り乱す?それは、違う……と思う……」
大雨の降りしきる庭をただ眺める。
本当につい最近顕現したばかりの知念は、静かに左耳の飾りを揺らす。
「それは、『心配』だと思う」
「……心配?」
「裕翔のことを、心配している……僕にはそんな風に見えるけれど」
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