＊この世で最も美しく、哀しくない話part６＊ (ページ5)

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智「････そうやってさぁ？女に不自由しなそうな君が夢中になる女、ってとこが

ますます気になるんだよねぇ」

大野さんの声は、楽しそう。ただそれだけだ。

あの笑顔で、患者さん達が信頼するあの笑顔で、今もこの台詞を口にしているのかと思うと

恐ろしいと思った。

だけど、私は和也の腕の中にいる。

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それは、ひどく心地よくて、温かくて、もう何も怖くない、と思った。

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和也の腕をまたぎゅう･･･と握り締める。

和也の掌がポン、と私の頭を撫でた。

大丈夫だ、って子供を寝かすみたいに。優しく。撫でた。

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和「止めてくれる？俺の奥さんに手ぇ出すの」

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その声に、言葉に、私の全身が、愛おしい。とまた震えた。

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智「フフ」

大野さんの笑い声が遠くで聞こえる。

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遠くで微かに風と、踏みしめられる枯れ葉の音がして。

大野さんがいなくなったことを理解する。

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ゆっくりと瞼から和也の掌が離れて。

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白い月と。

透明な空気と。

冷たい風と。

和也が、視界に入った。

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和也はいつもみたいに薄く微笑んだままで。

いつもみたいに意地悪そうに右の唇があがっていて。

いつもみたいに私の瞳を覗きこみながら「泣くとブスに磨きがかかるぞって言っただろ」意地悪な言葉。

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その意地悪な言葉を紡いだ唇が。

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私の唇に触れる。

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噛み付くような、キス。

和也の熱い息が私の中に注ぎこまれて。

唇が離れた瞬間に、冷たい冬の空気が触れた唇が、

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寂しい、と震えた。

愛おしい、と震えた。

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和也の指が私の頬を撫でる。