＊この世で最も美しく、哀しくない話part６＊ (ページ13)

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ソハラさんが不思議そうな顔をして私を見たのが分かった。

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友達…には見えなかったからだろう。

雰囲気も。チヅルさんの視線も。私の、少し震えた瞳も。

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A「････ソハラさん。すみません、１０分程抜けていいですか」

失礼を承知で言うとソハラさんは「ん」小さく頷いてくれた。

大丈夫？と目で聞かれた気がして、私も小さく頷く。

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そう。

人の悪意って、こうやって周囲に伝わるんだ。

チヅルさんをやっぱり怖いと思った。

だけど、悪意なんて微塵も出さずに微笑む大野さんの方が怖いと思った。

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冷たい雨が降る。

自動ドアを出ると大野さんの病院が、視界に入った。

チヅルさんが何か言う前に「御用は何ですか？」と短く聞きながら

自転車置き場の片隅へと歩いた。

雨だから自転車で来る人はほとんどいない。

ガランとした自転車置き場にはソハラさんが通勤とお子さんのお迎えに使っている

ママチャリと、他には１台の赤い自転車が停まっているだけだった。

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「雅紀と一緒にいるの？」

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チヅルさんの口から漏れた言葉に、私はチヅルさんと雅紀が

一緒に暮らしていないことを知る。

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A「いいえ」

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雅紀が選んだ道だ。

私が口を出すことじゃない。

ただ、どうか雅紀が幸せでありますように。笑えていますように。

それだけを願う。

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A「会っていません。連絡も取っていません。どこで何をしているか知りません」

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チヅルさんは青白く、ああ。ずいぶん痩せたな、と感じた。

もともと細い人なのに、今はコートを着ていても細さがよく分かる。

黒い柔らかそうなコートの肩に雨粒が１粒転がった。

シャツに薄手のカーデだけの私の身体が、じんわりと凍えていく。

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チヅルさんがほぅ･･･と大きく息を吐いた。

白い頬が、ますます白くなる。

「････････私、幸せになりたかっただけなのに」

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身勝手な、その言葉に、心の奥が沸騰する程

この人を憎く思ったあの日を思い出す。

だけど、ああ。

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今、この人は、哀しい。

美しいけれど、何かが折れたこの人は、とても哀しく、哀れだ。