＊この世で最も美しく、哀しくない話part６＊ (ページ1)

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大野さんの微笑みは

黒い闇の中で冷たく光っている。

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足が震えるのが分かった。

コンバースを履いているのに。

まるでピンヒールを履いているみたいに足が揺らめく。

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A「････知り合い、なんですか･･･」

チヅルさんと知り合いなんですか。と聞こうとしたのに

喉はチヅルという名前をうまく発音出来ず、子供みたいに拙い言葉しか出てこなかった。

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智「知り合い？」

大野さんがフフ、と笑う。

ああ、その笑顔は穏やかで、優しいのに。ああ、でも違う。

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智「むかーーし付き合ってた、とチヅルは思っているかな」

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パキン。と、大野さんの足元で枯葉と小枝が踏みしめられる音がした。

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智「俺に心底愛されていた、と信じているんじゃないかなぁ･･･」

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車のエンジン音。

遠くから車のライトが光り、それは一瞬救いに思えたけれど、

光は大野さんの白い頬を照らしただけですぐに去って行く。

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車の排気ガスと、遠ざかるエンジン音の中で大野さんが薄く微笑んだ。

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智「俺の心を相手が勝手に想像して幸せになるのは自由だものね？」

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ハハ、と大野さんがジャケットのポケットに手を入れて笑う。

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智「自称・元カノが、今の満たされていない生活を愚痴りにきても俺は優しく聞いてあげるよ？

････････優しい人、って思われるのが好きなんだ」

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大野さんの手が、ポケットから出された。

神経質そうな細い指。

そう、最初にそう思ったその指が、私に向かって伸びてくる。

その指は私の頬を冷たく、撫でた。

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智「愚かだなぁって反吐が出る気持ちで」

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智「苦しむ人間を見て微笑むのが好きなんだ」

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触れられた頬が、まるで氷を当てられたように、凍っていく。