＊この世で最も美しく、哀しくない話part５＊ (ページ9)

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日常のもう一つの変化も、急に起こった。

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正三さんが、倒れた。

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朝、仕事に行くと、いつもなら開いているシャッターが閉まったままで

なんだか嫌な予感がした。

店の裏側の玄関に回る。

鍵は開いていた。無用心ですよ、と何回か言ったことがあるけれど

正三さんは「盗られるようなもん何もないし平気平気」と笑っていた。

開いていて本当に良かった。

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A「･･･おはようございまーす･･･正三さん？Aです･･･入りますよ？」

玄関でそう言いながら、嫌な予感がどんどん身体を包んでいく。

もどかしくコンバースのスニーカーを脱いだ。

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居間で真っ白な顔で倒れている正三さんを見つけた時はもう、

右手で１１９番を押していた。

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「いやぁ～、びっくりしたなぁ～～」

正三さんが青白い顔でベッドに横になりながらハハ、と笑う。

「あ、俺、死ぬな。って思ったよ」

A「生きてます」

私もハハ、と笑いながらも、たった一日で一気に弱々しくなった正三さんを見ると

哀しいような怖いような･･･苦しさが胸に渦巻く。

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心筋梗塞。

幸い処置が早くて、命に別状はなく･････。

２週間程度の入院の後は、高血圧を下げる薬を服用して･･･無理は利かない。

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「････ごめんなぁ、Aちゃん」

正三さんが小さく笑う。

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その「ごめんなぁ」は、お店を閉めることを告げている。

もともと利益なんてほとんど出ない店だ。

だけど地元のお爺ちゃんお婆ちゃんの為にお店を閉めなかった正三さん。

一日中お店に立っているのは身体がキツイからと、私を雇ってくれた。

あの、抜け殻みたいな私を、雇ってくれた。

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私は微笑む。

たまにご飯作りに行きますよ、と笑う。

ご近所の橋本さんが午後からお見舞いに来るって言ってましたよ、と笑う。

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お世話になりました、って頭を下げたらきっと泣いてしまうから。

正三さんも泣いてしまうから。

私と正三さんはずっと楽しい話をして、笑ってた。