＊この世で最も美しく、哀しくない話part５＊ (ページ5)

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私は、うまく言葉が出てこない。

和也が生活からいなくなることを望んでいたくせに、

そんな毎日は途方もなくつまらないものに思えた。

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だけど、そう告げるのはあまりに身勝手だとも思った。

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翔くんが私の顔をじっと見る。

また、風鈴が高い音を鳴らした。

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A「･････っ」

私が何かを言おうと口を開いた横で、和也の指が枝豆をピョンと一粒、飛ばした。

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和「じゃあ俺、出て行くわ」

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和也はまた、ピョン。と一粒、枝豆を飛ばす。

鮮やかな黄緑の豆がコロコロと転がって、翔くんのビールにぶつかって止まった。

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和「親父たちももう俺を結婚させようなんて言わないだろうからさ。

俺の目的は達成♪」

和也が転がった枝豆を指で掴む。

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和「弁護士さんが出てこられたら、ねぇ？」

指で掴んだ枝豆を、私の口に「ん」と入れた。

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和也はまた新しい枝豆を摘む。

和「でもさ、少し時間ちょうだいよ。新しい部屋も見つけなきゃ行けないし」

枝豆を掴んだまま、枝豆を見たまま、まるで世間話をするみたいに

和也が淡々と話を進めていく。

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翔くんは、呆気にとられていた。

私は、翔くんよりも、呆気にとられていた。

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A「････なにそれ･･･」

かすれた声なんか聞こえない顔をして。

和也がまた私の口に枝豆を「ん」と入れる。

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顔をあげた和也が私の顔をチラ、と見て、また、目を伏せて

枝豆を見る。

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和「お前も嬉しいデショ、良かったな」

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和也の横顔はまるで他人のようで。

･････他人だけど。他人なんだけど。

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月子さんの為だけに紡がれた嘘に巻き込まれた私に。

和也は少しの躊躇もなく、手を振る。

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望んでいたことなのに、この大きな心の空洞は何なんだろう。