＊この世で最も美しく、哀しくない話part５＊ (ページ25)

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ソハラさんの言葉を間に受けた訳じゃないけれど････。

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確かに大野さんとは偶然を通り越して、よく会う。

遅番の日。薬局を出る時間を少し早めても、遅めても、

智「Aちゃん」

大野さんが偶然、と微笑む。

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これで私が絶世の美女だったり、まぁそこそこモテ街道を歩いてきた女だったら

私、狙われてるのね！とどや顔になったり

ストーカー！？と怖がったりするんだろうけど･･･。

私の人生を見返しても、そんな出来事は想定内にこれっぽっちも入っていなかった。

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タイムカードを押してタカサキさんに挨拶してドアを閉めた今日も。

遅番だから大野さんに会うかな･･･という想像よりも、

携帯に残っていた着信履歴の方に頭も心も、動いていた。

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１９時５８分着信・二宮和也。

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ほう･･･と吐いた息が白い。

今日は急に寒くなったから、冬服を取りに行くっていう電話かな。なんて

思って、それを楽しみに跳ねた自分の心に驚いて、でも気づかないフリをして。

親指が不在着信を示す和也の文字を押そうとしたその時まで。

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暗い道の中にいた大野さんに、私は全然気付かなかった。

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夜はほとんど人通りがない道で。

黒いジャケットを着ていた大野さんの姿を見た時、

思わず「きゃ！」という声が喉から漏れて。

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あ。大野さんだ。

と安心して、

ああ。いつもみたいに笑ってる。微笑んでる。

と安心したのに。

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智「･････面倒くせぇなぁ･････」

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そう呟いた大野さんの声は、低く、重く。

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智「さっさと堕ちれば簡単だったのになー」

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何を言っているのか分からなくて。

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智「簡単じゃないから楽しいのかな？」

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やっぱり何を言っているのか分からない。

けれど、全身が、凍えるのと、この人。怖い。なに？なに？と、頭の奥で

逃げろと叫んでいるのは、分かった。

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智「チヅルが君を恨んでるよ？」

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思いもかけないその名前に、喉と身体が固まる。

闇の中で、優しいと。人徳者だと。周囲が褒める人が。

全く違う顔をして、私を見つめて微笑んでいる。