＊この世で最も美しく、哀しくない話part５＊ (ページ24)

今日:13 hit、昨日:14 hit、合計:985,807 hit

１２４ページ24

・

・

・

日々が流れていく。

仕事にも随分慣れた頃、休憩中にソハラさんが声を潜めて聞いてきた。

「Aちゃんさ」

A「ハイ？」

私はかじっていたおにぎりをング･･･と飲み込みながら返事をした。

・

「････大野クリニックの大野先生に狙われてる、って･･･ホント？」

・

ソハラさんの言葉に、ご飯粒が喉の奥でむせた。

A「グェッホ！････な、んですかそれ！」

「あああ、大丈夫？ごめんごめん」

いつもお子さんの背中を撫でているのだろう。ソハラさんの柔らかい掌が

私の背中を撫でる。

・

「主任が大野先生とたまーーに飲む仲らしいんだけどね？」

ソハラさんはタカサキさんのことを「主任」と呼ぶ。

タカサキ・は旧姓と一緒でなんか呼びにくいの、と笑って話していた。

「めちゃくちゃAちゃんのことを聞いてくるらしいのよ～」

・

・

私はまだむせながらも。

私の名前をタカサキさんに聞いた、と言っていた大野さんの言葉を思い出していた。

「大野先生、職場の看護師さんもまず若い子を採らなくてね？まぁご実家から連れてきたベテランが

数人いるから若い子はいらないってこともあるんでしょうけど･･･」

A「ハァ･･･ご実家･･･」

「そうそう、ご実家もお医者様。･･･でね、まぁ若い子を採らない理由はやっぱりね？

ホラ、大野先生･･･あの顔で仕事も出来るから、看護師さんが夢中になっちゃうんだと思うのよ。

そんなことになると揉めるじゃない？実際多いでしょう、医者と看護師の･･･ね？」

A「･･･まぁ、聞きますよね･･」

「そう。だから最初から若い子を採らないんだっていうのが私と主任の意見でね。

そこもしっかりされてるわって話していたんだけど･･･その大野さんが

Aちゃんのことだけは興味津々ぽいって」

A「ハァ････」

ソハラさんはいつものおっとりとした物静かなイメージとはうって代わって

テンションが高い。

「あ！ごめんね～～、もうスッカリ自分が色恋沙汰から遠ざかっているから

こういう話題がものすごく楽しくて･･･ヘヘ」

ソハラさんはそう言って笑った。