＊この世で最も美しく、哀しくない話part５＊ (ページ22)

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和也はタバコを咥えながら、長袖のシャツやニットをガサゴソと紙袋に詰めていく。

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勝手に引越してきて、知らないうちに我が家にあった荷物が

今、目の前から消えていく。

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和「お前と違って俺、細いじゃん？最近はもう寒くてさ～」

和也が笑う。

A「私だって今日肌寒いな～って思ったもんね！」

和「嘘つけ。お前は一年中ワキ汗ビッショリだろうが」

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和也が荷物を置いていた一番北側の部屋には、もう何十年前のか分からない古い

置き時計があって。

秒針の音がカチ、カチ…と大きく部屋に響く。

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A「･････新しい部屋、どこなの？」

和「Ｔ町」

A「そか」

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遊びに行く、とはなんだか言えなかった。

コイツは昔から自分のことは極力話さない。

きっと私はこのまま、和也の新しい部屋の住所も、暮らしも知らず、生きて行くんだ。

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以前和也が住んでいたマンションは、大学生の頃からずっと住み続けていた

ごくごく普通の、ワンルームで。

実家も裕福で、働き出してからは給料も悪くないだろうに、

小さな、殺風景な部屋だった。

本棚だけは色々なジャンルの本がビッシリと並んでいて、そこだけが和也を表していたな、と思い出す。

そこに山口百恵ＣＤ全集があった。

A「和也、車は手放したの？」

和「ん？あー、ずっと駐車場に置きっぱなし」

A「ポルシェを！？」

和「ポルシェを。」

A「もったいな！」

そう笑いながらも和也らしい、と思う。

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和也が何かに執着する姿は想像がつかない。

A「････物に執着しないよね」

和「物より金が欲しいな・笑」

A「生々しいな！笑」

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和也が「紙袋、他にもない？」と聞き、私は押入れから数枚の紙袋を取って渡した。

A「･････人にも執着しないよね」

私のポツンと出た言葉は、まるで自分に執着して欲しいと言ってるみたいだ。

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月子さんのあの儚い微笑みが浮かんだ。