＊この世で最も美しく、哀しくない話part５＊ (ページ17)

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智「電車通勤ですか？」

横に並び、大野さんが言った。

男の人と横並びで歩くのはひどく懐かしい気がした。

雅紀の体温が一瞬蘇り、和也の憎まれ口が、蘇った。

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A「あ、いえ。徒歩なんです」

智「へぇ、いいですね近くて」

大野さんがハハ、と笑う。

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大野さんと呼ぶべきか、大野先生と呼ぶべきか、少し迷ったけれど

A「大野さんは車通勤じゃないんですか？」

そう聞くと

智「開業したてで余分な金はないですよ・笑。電車通勤です、といってもＳ町なんで

一駅ですが」

大野さんが笑った。

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･････傍目から見て充分に繁盛している病院だ。

薬局のメンバー内でも、待合室で話している患者さんたちの間でも

評判がいい。

謙虚な人だな。

全員がそうじゃないけれど･･･医者に横柄な変わり者が多いのも知っているから

大野さんの言葉は気持ちよく聞こえた。

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交差点まで来て、頭を下げる。

A「私、こっちなので･･･失礼します」

智「あ、ハイ。･････おやすみなさい」

A「おやすみなさい」

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大野さんがスタスタと駅へ歩いていく後姿を数秒見送り

私も家へと足をすすめた。

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一週間後も、偶然帰り道で大野さんに出会った。

遅番でこの時間に出るとちょうど帰りの時間が一緒なのか･･･と

８時過ぎをさす腕時計をチラ、と見る。

ふんわりと笑う人当たりのいい人だけど、今度からは時間をズラそう。と思った。

大野さんが私に何の興味もないのは重々承知だけど

やっぱりまだ、男の人と肩を並べて歩くのはね。

思い出が蘇って辛い。

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智「また会いましたね。････････A、ちゃん」

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大野さんが突然私の名前を呼んだので驚いた。

ん？と大野さんが小さく笑う。

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智「ああ。････タカサキさんに聞いたんですよ、Aちゃん、って」

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････タカサキさん、私のことAちゃん、なんて呼ばないけどな。

大野さんはふんわりと笑ったまま言った。

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智「いまから飯、食いに行きませんか？Aちゃん」