＊この世で最も美しく、哀しくない話part５＊ (ページ15)

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和也がいなくなった。

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私は以前みたいに夜は一人でビールを飲んで、たまにウイスキーを飲んで

片付けもせずにそのまま畳の上で寝ちゃったりして。

テレビを観ながら「この女優さんなんて名前だっけ？」といない和也に

話しかけちゃったりして。

うっかり素麺を２人分茹でちゃったりして。

１人の気楽さを思い出すと同時に、２人の楽しさを思い出す。

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それは、せつなかった。

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無事退院した正三さんの通院に付き合ったり、ご飯を作りに行ったり、

用もないのに顔を見に行ったり、

友達と女子会だ～って二日酔いになるまで飲み明かしたり、

日常は少し変化して、だけど変わらない部分もあって、

そんなの２０数年生きてきて当たり前だと知っているのに

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和也がいない。

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そのことだけはすごく違和感を感じる。

あっという間に慣れるはずだと思いながらも慣れない自分に

気付かないフリをしたまま、新しい職場を決めた。

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内科と耳鼻科･･･個人病院が２つ並ぶ通り沿いにある小さな調剤薬局。

来る人の大半がその２つの病院の処方箋を持った患者さん達だ。

正三さん程ではないけれど温厚なタカサキさんの下につき

仕事を覚えていく。

８つ上のソハラさんはお母さんで、平日昼間だけのパートだと頭を下げた。

「子供が熱出したり･･･で急にお休みを頂くことがあって･････。迷惑かけるかも。

ごめんなさいね」

申し訳なさそうに言うソハラさんにイエイエと笑いながら、

チクンと胸は痛んだ。雅紀と会えなかった夜をいまだに思い出すのかと、

そんな自分にも、チクンと胸が痛んだ。

だけど大丈夫。

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私は笑えてる。

２年前の私じゃない。大丈夫。

歓迎会を開いてもらって飲んだお酒はとても美味しかったし。

酔っ払ったタカサキさんの「中学生の娘が口をきいてくれない･･･」という悩み相談に

「とりあえず加齢臭をどうにかしましょうよ！」なんて言っちゃったコクブンさんの

酔っ払い具合はとてもおかしかったし。

大丈夫。新しい世界で、頑張れる、と思う。

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でも、和也が、いない。