＊この世で最も美しく、哀しくない話part５＊ (ページ12)

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A「違うよ･･･」

和也の手がゴシゴシと私の髪をバスタオルで拭いていく。

和也の腕の中で和也を見上げる。

和也の前髪からもポタポタと水滴が落ち･･･

びしょびしょの身体が触れる廊下の濡れた感触が足やお尻から伝わってくる。

和也の濡れたシャツ越しに聞こえる和也の鼓動。

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A「違うから････」

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私は笑おうとしたけれど。

勘違いだよーんって笑おうとしたけれど。

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肌に触れるタオルが心地良いのか。

和也の腕の中が心地良いのか。

どうして私は泣きたい気持ちなのか。

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A「違うって････」

また、重さなんて更々ない空っぽの声が漏れる。

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死んでしまいたいと思ったこともあったなぁ、と思い出す。

２年前は思ってた。

明日、車に轢かれないかな。

このまま眠って、明日、目が覚めないといいな。

ぼんやりとそう思ったりもした。

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今は思わない。大丈夫。大丈夫。

雅紀を想うと胸はズキズキと痛むけど。大丈夫。

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私は生きてる。

私は生きていく。

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A「･････和也････」

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和也の名前を呼ぶ。

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和也はゴシゴシと私の髪を拭く手を緩めない。

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A「････出て行かないでよ･･････」

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ああ。何言ってるんだろう。

乾いてきた頬がまた濡れる。

涙で、濡れる。

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A「･･･････ずっと、この家にいてよ･･････」

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ああ、何言ってんの私。ピタ、と、和也の手が止まった。

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･･･寂しいよ。

あんたがいなくなるのは、寂しいよ。

ムカつくけど、腐れ外道だけど、いなくなるのは寂しいよ。

みんな、いなくなっていく中で、あんたまでいなくならないでよ。

ムカつくこと言ってていいからさ。

一緒にご飯食べようよ。たまには一緒にラーメン屋に行ってさ、お酒飲んでさ。

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A「････行かないで･･･････」

和也の濡れた腕を、握りしめていた。