＊この世で最も美しく、哀しくない話part４＊ (ページ23)

今日:3 hit、昨日:8 hit、合計:1,020,958 hit

９８ページ23

和也とお父さんの会話を聞きながら、運ばれてきた懐石料理を口に含む。

どれもとても綺麗で、とても美味しい。

・

お料理を食べながら、月子さんと何度か目があった。

目があうと、月子さんは恥ずかしそうにちょっと笑う。

・

・

綺麗な人だな。何度もそう思った。

和也のお父さんの横で静かに、丁寧にお父さんの世話を焼く。

ゆっくりとお醤油を注ぐ細く白い指も

着慣れているのだろう、着物姿の動きも

お父さんの横顔を愛おしそうに見つめる瞳も

何もかも美しいと思った。

・

・

和「だからさ？俺はAとこっちで幸せに暮らしているからさ」

・

和也が胡麻豆腐を食べながら言う。

・

和「俺は跡は継がないよ。････ケイヤが医者になりたいって言っているなら

ケイヤに継がしてやればいい」

・

・

ケイヤ。という名前を初めて聞いたけど。

私はもぐもぐと鯛のお刺身を食べる。

・

・

その和也の言葉を止めたのは、思いがけず･･･月子さんだった。

・

「駄目よ、和也さん」

・

・

「亡くなったあなたのお母様の夢でした。･････お家も、病院も、全部あなたのものです」

トン、と箸置きに置かれた黒い箸に乗せられた白い指が、微かに震えている。

月子さんの瞳も、微かに震えていた。

・

・

和也が、その震える指先を見つめたまま、言った。

・

・

・

和「･･･････こんなひねくれ者の高校生がいる家に来てくれて。

仕事で忙しい親父に寂しい思いもしただろうし。

馬鹿な親戚から散々嫌味を言われたことも、全部我慢して、親父と家の為に生きてきた

あなたを知ってるよ」

・

・

月子さんの眉が、歪んだ。

・

・

和「俺の死んだ母親の夢よりも」

・

・

和「･････生きているあなたの幸せを考えたっていいでしょう」

・

・

月子さんの瞳が大きく開かれて、唇が震えていく。

瞳から一粒涙が零れ落ちた。まるで、水晶みたいにキラキラと。

・

・

和「親父ぃ～、ここは月子！って抱き締めるとこだろ・笑」

和也が笑い、お父さんが「親をからかうな！」と頬を真っ赤にさせて、焦った。