＊この世で最も美しく、哀しくない話part２＊ (ページ8)

今日:17 hit、昨日:15 hit、合計:664,159 hit

３３　ページ8

玄関のガラスにもたれかかった。

それが合図だったかのように、緊張していた身体からへなへなと力が抜けていく。

玄関の土間に座りこみ、ざらついた砂の感触が足に触れた。

・

・

和也が握っていた私の腕を離した。

手も力なく、ペタンと冷たい床に触れた。

・

・

和也を見上げる。

ありがとう。それしか上手く言えないけど。

和也の言葉は全部残酷で、でも全部正しかった。

・

・

口を開こうとした私に和也が笑顔で言った。

・

和「俺、すげぇかっこよくなかった？」

A「･････････は？」

和「いや～、自分で惚れ惚れしたわ、俺！かっこいい！最高にかっこよかった！」

A「･･･････････････え？に、のみやサン？」

あ。と和也がハッとした顔をして私を見た。

・

・

和「実は一緒に暮らし出してから･･･お前のこと･･･友達として見れなくなってた。

･････元カレのことなんか忘れて俺と一緒に生きていかないか？

なんて展開、夢見んなよ？」

ビシィ！と和也が私を指さす。

・

和「そんなラブリー展開、ないからな！そんな展開を期待していたとしたら

俺は笑顔でその希望を粉々に砕いてやろう！」

ワハハ、と和也が高らかに笑う。

和「好きなんだろ、女は「実は１番優しい人はすぐ側にいた」展開がよ～？

一緒に暮らし出して湧いた感情はお前の鼾への殺意だけだわ～」

和也がスタスタと台所に歩いて行き、ビールを取ってくる。

立ったままビールを飲み、鯛焼きを咥えるこの男。

・

・

力が抜けていた身体が、沸々と熱くなっていく。

・

馬鹿だった。

一瞬でもこの腐れ外道に感謝しそうになった自分が馬鹿だった。ほんっとーうに馬鹿だった。

・

・

和「ホラ、言ってみ？鯛焼き下さいってそのまま砂にまみれて言ってみな？」

A「誰が言うか！」

和「あ、お前さ、寝てる途中で息止まるよ？グーガ、グーガ、･････スピー･･･♪って。

あれじゃね？睡眠時無呼吸症候群じゃね？さ、レッツ耳鼻科☆」

A「･･･････」

・

腐れ外道からのアドバイスを抱えて、明日、耳鼻科に行こう･･･くそっ！