＊この世で最も美しく、哀しくない話part２＊ (ページ5)

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夜風が髪を揺らす。

涙も風に吹かれて頬を一瞬冷やした。

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雅紀の腕が伸びて私に触れようとし、

私も、雅紀自身も、身を固くする。

触れたら、私達は闇に堕ちていく。

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その時、私の腕をがしっと掴んだのは和也だった。

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A「････和也･･･」

カラカラの喉の奥から声が出る。

雅紀が触れようとした私の身体を掴む和也の腕に、

どこかホッとして

どこか腹が立った。

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和「２人共、頭冷やせ」

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和也が眉を顰めて私と雅紀を見る。

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和「相葉くんは嫁と子供を捨ててAとやり直す覚悟があんの？」

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風がまた、私の髪を揺らして、雅紀が視界から消える。

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和「Aも」

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ぎゅう･･･と痛い程強く、和也が私の腕を握る。

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和「嫁と子供から旦那と父親を奪う覚悟があんの？」

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風が。

風が、雅紀から私を隠してくれればいい。

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人を恨み、人を憎み、罪もない子供の命が尽きることを一瞬でも願った

鬼のような私を。

雅紀に見せないで。

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２年前の冬。

私と雅紀は一緒に夕飯を食べる約束をしていた。

新しく出来た居酒屋に行くつもりで、何日も前から楽しみだった。

私のシフトは５時までで、帰ろうと更衣室で白衣を脱いだ時に

ロッカーの向こうからタジマさんの声が聞こえた。

「･････うん、そう。うん、お母さん８時には帰れるから、うん、大丈夫？」

白衣をハンガーにかけようとしていた指が止まる。

「今は何度？･････そっか、なるべく早く帰るから。うん、いい子にして寝ていてね？」

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タジマさんの心配そうな小さな声に、確か小学３年生だっけ･･･の娘さんが

具合が悪いことを察する。

タジマさんは私の先輩で、まだまだ仕事にテンパる私をいつも優しく助けてくれる人。

シングルマザーのタジマさんは先週、娘さんがインフルエンザの時に

急遽５日間休んだ。････タジマさんの代わりに出勤した人や、残業した人に

何度も謝っていたのを思い出す。

A「タジマさん。私、代わりますよ。帰ってあげてください♪」

その一言すらも、私は後で後悔した嫌な女だ。