＊この世で最も美しく、哀しくない話part２＊ (ページ25)

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雅「A」

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会いたい、という私の言葉への返事は、私の名前だった。

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雅「今、どこ？」

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耳に届く雅紀の声に、心が震える。身体が震える。

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雅「会いに行く」

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雅紀の、張り詰めた声がした。

雅紀の声に、私と同じ覚悟を知る。

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A「･･･Ｋ駅前にラーメン屋･･･名前･･えっと･･」

雅「分かった。近いから。すぐ行く」

私の声に被せるように、雅紀が早口で言う。

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雅「待ってて」

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うん。と返事をする前に、雅紀はもう１度言った。

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雅「待ってて。絶対に、そこにいて。すぐに行くから」

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･･･････その言葉に、涙が零れる。

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A「うん･･･」

頷くと、涙がまた、零れた。

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電話を切って、カバンを持つ。

ズズ･･と鼻水が垂れた私に、翔くんが「ん」とまたティッシュを渡してくれる。

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A「･･･私、行くね」

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翔くんは少し困ったように、それでも「ん」と小さく頷いた。

和也は煙草にカチ、と火を点ける。

和「櫻井クンもいる？」

翔「あ？････あぁ、１本もらうわ」

和「ん」

翔くんに煙草を１本渡して、翔くんが咥えるとカチ。と火を点けた。

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２人の横を白紫の煙が流れて行く。

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ラーメン屋の木目のカウンター。

カウンターの上にはラー油と、ニンニクと、割り箸と、ティッシュが置いてあって。

食べ終わったラーメンの器が３つ置いてあって。

３人で１皿注文した餃子は１つだけ残っていて。

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そんな風景をバックに、和也と、翔くんが私を振り返って見てる。

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平穏な日常というものがあるとしたら、この景色が最後の記憶になるのかなと

思った。

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和「･････せいぜいお幸せに」

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和也の瞳が、私を冷たく見つめたまま「いってらっしゃい」と言う。

ヒラヒラと振られた掌の温かさを、悔しいけれど私は知っている。

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だけど。

全部を捨てて、私は雅紀の元へ、行く。