＊この世で最も美しく、哀しくない話part２＊ (ページ12)

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「一夜の過ち」を乗り越えるのは苦しかった。

めちゃくちゃ泣いた。泣いて泣いて、初めて雅紀を叩いた。

雅紀も苦しいと知りながら、それでも許すまでに、乗り越えるまでに

私は生まれて初めて眠れない夜を過ごした。

友達からは「悪いのはお酒だよ」と慰められたりもした。

「相手は最初から雅紀くん狙いで飲ませてたんでしょ？そうでもしないと

落とせない可哀想な女じゃん」と言われたりもした。

「雅紀くんだって苦しいと思うよー･････」と言われたりもした。

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どうにか全部を飲み込み、雅紀への愛は変わらないと思えたのは

１カ月たったころだった。

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１カ月で随分痩せた雅紀は「････俺、絶対もう二度とAを泣かせないから」

小さく、短く、それでも強く言い、私を抱き締めた。

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嘘はない。

その言葉に嘘はないのは私にも分かる。

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それだけで充分だ。もういい。もう、未来を見よう。幸福な未来を見よう。

私達はいっぱい泣いて、泣いて、泣いて、キスをした。

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だけど。

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謝らないで。

私は耳を塞ぎそれだけを繰り返し繰り返し雅紀に言った。

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何も聞きたくない。

言い訳も、謝罪も、何も聞きたくない。

何を聞いても元通りにならないのなら、耳に残るあなたの声は

いつもの「大好きだよ」という甘い言葉と

いつもの「A」と甘く呼ぶ私の名前だけでいいと思った。

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雅紀の横に立つあの人の顔を、私はあまり覚えていない。

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ただ恐ろしかった。

私のことを傷つける覚悟がある女の人の情念というものが、恐ろしかった。

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カタカタ震える身体であの人の言葉を聞いた。

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「お腹に雅紀の子供がいるの。だからとっとと別れてね？

えーっと･･･Aサン、だっけ？」

責任を取る。と掠れた声で告げる雅紀は、やっぱり雅紀だと思った。

その優しさが、好きだよ？だけどね、苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

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私はただ耳を塞ぎ、愛した人が、他の誰かの夫になり、父親になる背中を

見送った。