＊この世で最も美しく、哀しくない話part２＊ (ページ2)

今日:14 hit、昨日:15 hit、合計:664,156 hit

２７ページ2

目が合ったのは金曜日だった。

翌週の月曜日、バス停に並ぶあの人と、また目があった。

ペコリ、と頭を下げられて、私も慌てて頭を下げた。

・

・

水曜日。

バス停に向かう地下鉄の階段でトントン、と肩を叩かれた。

・

・

「･･･････おはよう」

・

・

初めて交わしたこの言葉を、私は何度も何度も思い出した。

私の人生で、忘れることのない「おはよう」だった。

初めて聞いた、雅紀の声だった。

・

・

・

ナンパなんてされるような女子じゃないことは重々知っていたし、

雅紀の言葉のどこにも、私とどうかなりたいだなんて意味は含まれていないと信じていた。

・

雅「週に何回か会うよね」

雅紀の声に「ね」と答えながらも、月曜と水曜と金曜だよ。と心の中で思う。

知らないんだ。となぜか悲しくなった。

私は知ってるよ。

あなたと会うのはね、月曜・水曜・金曜だよ。

今で３年目。私は知ってるよ。

・

・

一緒に遊びに行くきっかけは、もうすぐやってくる夏休みだった。

お互いの大学の友達を誘って大勢で花火大会。

友達が浴衣で可愛い格好をしてくるのに、私はなんだか恥ずかしくて

いつものように色気のないＴシャツとジーパン姿だった。

和「･･･････意識してなんかないよっ！って意識してるのが丸見えで

滑稽だわぁ～･･･････」

ボソリ、と耳元で和也に言われて、なんでコイツもいるんだよ！と心底ムカついた。

・

・

雅「雅紀って呼んで」

キャーキャーと花火に歓声をあげる女の子達の高い声。

夏の夜空。周囲を包む花火の煙。

それらを遠くに見つめながら、雅紀の横に座る。

心臓がバクバク音を立てて苦しくて苦しくて、私は「うん」と短く答えた。

・

・

他の女の子達に「相葉ちゃんって呼んで」と言ったのを聞いて

私は心臓が苦しくて苦しくて、でもどこか甘くて、苦くて

勝手に涙が滲んだ。