＊この世で最も美しく、哀しくない話＊ (ページ6)

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全然動かない頭のままの私を、和也がトゥ！と
後ろから起こした。

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和「お前今日、早番だろ？さっさと着替えないと遅刻だぞ」

A「･････いや、あの、二宮くん？」

和「他人行儀だな。もう夫婦なんだからダーリンとでも、かじゅ♪とでも

和也様とでも好きなふうに呼んでくれて構わないぞ？」

A「おい、二宮」

和「指名手配犯みたいだからやめてくれる？それ」

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A「････シャワー浴びてくる･･････」

フラフラと歩き出す私に和也の声。

和「お前んちシャワーないだろ」

私はクルリ、と振り返って和也を睨んだ。

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A「お風呂に入って！湯船から洗面器でお湯を汲んで！身体を洗ってきます！！」

和「いってらっしゃい」

ヒラヒラと手を振る男を冷たい目で見ながら、私はお風呂に向かう。

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築４０年の平屋。

お湯を沸かす。昨日の夜入ったままの残り湯だったのもあって５分も待つと

温かいお湯になる。

脱衣所なんて場所はない。

廊下が脱衣所。

和也は分かっているからここまでやってこない。

障子の向こうで聞こえてくるテレビの音。どうせ麦茶でも飲みながらテレビを見ているんだろう。

下着を脱いで、一瞬バッ！と窓を開ける。

窓の外に洗濯機があるからだ。裏庭の小さな軒下に無理矢理置いた未だに

２層式の古い洗濯機。そこにパンツが入ったのを確認して窓を閉める。

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仮にも若い女の子が住む場所じゃないわよ。お母さんは眉をしかめてそう言ったっけ。

お婆ちゃんが５年前大往生で亡くなって、ポッカリと空いていたこの家で

１人暮らしをする。そう言った私に、お父さんもお母さんも反対した。

確かにものすごく住みにくい。

冬は隙間だらけでめちゃくちゃ寒い。

部屋の中にトカゲが歩いてたり、蜘蛛がいたり、ゴキブリ遭遇率もハンパない。

でも、そういや小さい頃はどんな虫でも触っていたもんなぁと思い出してからは

虫も平気になった。