＊この世で最も美しく、哀しくない話＊ (ページ20)

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優しい翔くんの言葉は、ほとんど頭に入ってこなかった。

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しまった。と心底後悔する。

あの頃を思い出してしまう人に、こんな相談をするんじゃなかった。

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婚姻届･･･結婚･･･そんな言葉を、あの頃とは全く違う意味を持った同じ言葉を

同じ人と話すんじゃなかった。

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私の身勝手な後悔は、翔くんにすぐ伝わったみたいだった。

翔くんはアイスコーヒーの氷をストローで回しながら

「･･･ま、さ。何か困ったらいつでも俺を頼ってくれればいいから」

何の解決もしていないまま話を終わらせてくれる。

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翔「そういやさ、駅前に美味いラーメン屋出来たの知ってる？

今度行かない？A、ラーメン好きだろ」

話を変えてくれる。

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A「･･･ラーメン大好き」

ごめんね、翔くん。

相談する為に呼び出したくせに、相談内容に傷つく身勝手な私でゴメン。

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A「････翔くん、ゴメンカピバラ」

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語尾につけてみたら、また翔くんはブーーー！とアイスコーヒーを噴出した。

私はさっとかわし、今度は濡れなかった。

A「そんなに似てる？笑」

翔「イヤッ････いや、そんなことは････グェッホ！」

A「そんなに似てるカピバラ？笑」

翔「語尾に付けるのは止めて！笑」

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私達は昔みたいに笑う。

あの頃はこの輪に、雅紀もいた。と私が思い出していることを、きっと翔くんは知っている。

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馬鹿だよね。

忘れることも出来ず、憎むことも出来ず、思い出にも出来ない私を

きっと翔くんは少し困って見てる。

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別れ際、翔くんは真顔になって言った。

翔「カピバラより･･･どちらかと言うとヌートリアだと思うんだ」

････････。

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翔くんと別れてから携帯で検索した私は、思わず叫んだ。

A「ほぼ、カピバラじゃん！！！」

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ヌートリア。という動物の画像は、素人目にはカピバラにしか見えないもので

あンの野郎～･･･！と思った時にメール受信。

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『嘘(笑)。Aは可愛いよ。いつでも頼ってな』

この翔くんからのメールには思わず

A「さ・さっわやか～････笑」

という声が漏れた。