＊この世で最も美しく、哀しくない話＊ (ページ14)

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３杯目のビールを半分ほど飲んだ所で、和也が言う。

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和「俺、マンション引き払ったからさ、今夜からお前ん家に住むわ」

A「すごい！これだけ腹が立つと笑えてくる！」

和「笑顔も可愛いぞ☆」

A「アハハ、アンタのその心の篭ってない笑顔がホントに嫌い！アハハ笑」

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お酒って、いいものだなぁとしみじみ思う。

酔っていればなんでも笑える。全部どうでもいっか☆って思える。

この目の前の、ふざけた男の言動も、ま、明日どうにかすればいっか☆って思える。

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どれだけ酔っても忘れられないことは１つだけ。

どれだけ酔っても笑えないことは１つだけ。

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和也の後頭部にガンガン、ジョッキを当てながら

ツルピカハゲ丸のおっちゃんが「姉ちゃん、メンマ食うか？」と出してくれたメンマを食べながら

私はグイグイビールを飲んだ。

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典型的な酔っ払いになっていたと思う。

オシッコが近くて何度もトイレに立って、帰ってくる度にカウンターの椅子に上手く座れなくて

和「お前、生まれたての太い小鹿みたいだな」

の言葉にさえウヒャウヒャ笑ってしまう酔っ払いな私。

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和也が煙草を吸いながら、野球中継をおっちゃんと見ながら

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和「一週間前かな･･････街で相葉くんに会ったよ」

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と言った時も、私はまだウヒャウヒャ笑えてた。

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和「転勤でこっちに戻ってきたってよ」

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小さなテレビから「打ったーーー！」とアナウンサーがホームランを伝えてる。

大きな鍋にブクブクと湧くお湯。

目の前を流れていく和也の煙草の煙。

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和「･･････馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど」

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和也の掌が私の頭をポン、と撫でた。

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和「･･･････まーだ忘れてなかったのか、A」

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またおっちゃんがハワワワワワ～･････と慌てふためいている。

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そのおっちゃんの顔があまりに「どうしていいか俺、わかんねっ！」で、私は少し笑った。

笑ったけれど、ボロボロ零れてくる涙は全然止まらなくて

ああ、酔っ払いって涙もろいからヤダな。と思った。だけど。

･････酔っていてよかった。涙を全部、お酒のせいに出来るから。