＊この世で最も美しく、哀しくない話＊ (ページ1)

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畳の上に敷かれた布団。

私はその布団の上に浴衣姿で横になっている。

別に日本人として寝る時は浴衣でございます、って訳じゃない。

この家に引っ越してきた時にパジャマを持ってくるのを忘れただけだ。

しょうがない、昔の人は浴衣で寝てたんだし。と浴衣で寝た。

それ以来ずっとパジャマを買い忘れているだけだ。

一応寝る時に帯はきちんとして寝るけれど、朝起きた時はたいてい

浴衣はグチャグチャだ。

今朝はかろうじて胸は隠れていたけれど、足は太腿まであらわになっていた。

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ゆっくりと起き上がる。

････昨日は飲みすぎた････。

布団の横の机に置かれたウイスキーの瓶を横目で見て少し反省。

・

・

A「喉渇いた･････」

・

飲みすぎた翌朝ってどうしてこんなに喉が渇くんだろう。

「はい、水」

・

私が水を欲しがるのを完璧に予想していた彼が、サッとペットボトルを差し出す。

そのペットボトルを取ろうとしたらサッと隠された。

･･･なによ？と睨むと、机の上に置いてあったガラスポットから

コポコポと小さな音を立てて麦茶がコップに注がれる。

キラキラ光るコップに入った麦茶を「水より安い」と渡された。

・

・

･･･････そうだ、この男はペットボトルの水なんて「あほらしい。水道ひねれや」という男だった。

昨日煮出した麦茶の方が数段安上がりだわね。

そういう所は好きだ。

無駄使いをしない。日常はごくごく質素だ。

そのくせたまに大きい買い物をポンとする。

「赤い車が欲しい」と言ったかと思えば、なんと現金を握り締めて

赤いポルシェを買いに行ったことがある。

しかもＴシャツにジーンズにビーサン姿で。

「赤い車と言えば赤いポルシェしか浮かばなかった」とポツリと言った彼の

ＣＤ棚に山口百恵全集があることは知っている。