３３ ページ34
「おじさん。これ、おいくら？」
屋台のおじさんが、時子さんの白い肌に見惚れたまま、値段を言う。
「はい」
コロン、とおじさんの掌に転がる小銭。
・
・
・
時子さんがニッコリを笑った。
そして私の指を握る。
「････時子さ、ん？」
スルリ、と私の右手薬指に入った、金色の指輪。
・
・
・
・
「･･･････うち、ね。親に反対されたままの結婚で･･･････お金もなくてね笑」
時子さんの長い睫毛が、揺れる。
「これから２０年････もっとね。３０年？･･･じゃ、遅いかな笑」
時子さんの声が、揺れる。
・
・
・
「････････少しずつお金を貯めて、翔のものを揃えて」
時子さんの愛が、揺れる。
・
・
・
「いつか、翔のお嫁さんに譲る指輪を作るのが、夢だったの」
・
・
・
ああ。
泣くな。泣くな、私。
泣くな。
・
・
・
「････････これは、予行演習・笑」
・
・
・
悪戯っ子みたいに、時子さんが笑う。
・
・
・
時子さん、と呼びたいのに、そんな先の予行演習ですかって笑いたいのに
声を出したら私は大声で泣いてしまうから、私は唇をぎゅうと噛みしめて
金色の指輪を見る。
・
・
・
・
「よろしく、お願いします」
・
・
・
時子さんは短く。
本当に短く。
それだけを、言った。
・
・
・
・
カラカラと、回る風車の、赤。
指輪の、赤。
・
・
・
あなたの代わりに櫻井さんを愛したいんじゃない。
あなたの代わりに翔ちゃんを育てたいんじゃない。
あなたが、好きです。
あなたと、櫻井さんと、翔ちゃんが、好きです。
だから。
だから。
・
・
・
私の声にならない叫び声はきっと、時子さんに届いていたと思う。
・
・
時子さんの横にしゃがんで、指輪を抱えるように顔を伏せた私の背中を
時子さんの掌が何度も、何度も、撫でた。
・
・
・
時子さんが、療養の為に引っ越した土地で息を引き取ったのは
それからしばらくしてのことだった。
・
・
・
葬儀で翔ちゃんを抱いて泣き崩れる櫻井さんを見ながら
私は泣いた。
時子さんがくれた指輪を握りしめ、泣いた。
ラッキーアイテム
革ベルト
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1143人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
storm1030(プロフ) - つづきは？ (2015年6月27日 18時) (
レス) id: 43817020fb (このIDを非表示/違反報告)
なつみ(プロフ) - すごく素敵なお話ですね。とても感動しました。その後が気になります(´ω｀) (2015年3月1日 16時) (レス) id: 2d33a07c6c (このIDを非表示/違反報告)
優(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。瀬音さんのお話がだいすきです。未成年なのでフラグがついていない作品を読ませていただいています。どれもこれもどストライクです。続きを楽しみにしています。時子さん切ないっ……!! (2015年2月4日 16時) (レス) id: 785f67a003 (このIDを非表示/違反報告)
ひつじー(プロフ) - 更新１話分で泣いて、オマケで引っ込んだ……なんか思い通りにされすぎてコワイ！子供の卒園式でちょっと泣いて友達に驚かれるくらい、全く泣きそうにない人間なんですが……。 (2015年2月4日 5時) (レス) id: 999ce25bef (このIDを非表示/違反報告)
ハプ(プロフ) - トキコさんと翔さんのお母さんの気持ちを考えたら、切なすぎて何とも言えない感情になりました。 (2015年2月3日 22時) (レス) id: c475130eed (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
