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虹沢に、古い一軒家を、借りた。
築３０年ほどの洋風の一軒家。
買うことも出来たけれど、学校や生活に慣れてから考えてもいいと思ったからだ。
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虹沢の夏の終わりは早い。
夕方になると響く虫の声。
そよぐ木々の葉の音。
澄んだ空の、秋を呼ぶ香り。
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せわしなく流れていた東京の日々とは、時間も、音も、匂いも、違う。
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２階建てを選んだのは、雫にはずっと俺と同じフロアにいるのは苦痛だろうと思ったからだ。
１階はキッチンと、リビング。
そして洋室が二間。
洋室のドアを開ける度にぎぎ･･･と軋む音がしたけれど、あえてそれは直さなかった。
音がする。それは静かな世界に、新しい音を届けるような気がしたから。
２階には８畳の洋室が一つ。
出窓の前に、雫の机を置いた。
ベッドは買った。
「雫ちゃん、お婆ちゃんね、お裁縫が得意なのよ。一緒にベッドカバーを作らない？」
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いつの間にか、自分のことをお婆ちゃん。と呼ぶ母さんの横で
雫がコクン、と頷いた。
歳より大人びていると思っていたけれど、雫はどんどん、幼くなってゆく気がした。
大人びていたのは母との別れに、残り少ない日々に心を張りつめていたからで
実際には、年相応な遊びも知らない、友達との思い出も少ない、
幼い子供なのだと、俺は今になって気付く。
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薄いピンクの生地を２人の指が伸ばす。
雫のサラサラの髪が、扇風機の風に吹かれて揺れる。
古い網戸は隙間があって、蚊取り線香を出窓の外に置いた。
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蚊取り線香の香りも、遠く、懐かしい気がした。
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翔「雫。食べ物は何が好き？」
「･･････ニンジン以外ならなんでも好き」
翔「そっか。俺、料理苦手だからごめんな？」
「･････私、作れるよ」
翔「教えてよ」
コクン、と雫が頷く。
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雫が作った生姜焼きのタレにはマヨネーズが入っていた。
「お母さんの味だよ、櫻井さん」
雫が、初めて、俺に笑った。
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母さんがチクチクとベッドカバーを縫いながら、そっと目を伏せた。
ラッキーアイテム
革ベルト
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storm1030(プロフ) - つづきは？ (2015年6月27日 18時) (
レス) id: 43817020fb (このIDを非表示/違反報告)
なつみ(プロフ) - すごく素敵なお話ですね。とても感動しました。その後が気になります(´ω｀) (2015年3月1日 16時) (レス) id: 2d33a07c6c (このIDを非表示/違反報告)
優(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。瀬音さんのお話がだいすきです。未成年なのでフラグがついていない作品を読ませていただいています。どれもこれもどストライクです。続きを楽しみにしています。時子さん切ないっ……!! (2015年2月4日 16時) (レス) id: 785f67a003 (このIDを非表示/違反報告)
ひつじー(プロフ) - 更新１話分で泣いて、オマケで引っ込んだ……なんか思い通りにされすぎてコワイ！子供の卒園式でちょっと泣いて友達に驚かれるくらい、全く泣きそうにない人間なんですが……。 (2015年2月4日 5時) (レス) id: 999ce25bef (このIDを非表示/違反報告)
ハプ(プロフ) - トキコさんと翔さんのお母さんの気持ちを考えたら、切なすぎて何とも言えない感情になりました。 (2015年2月3日 22時) (レス) id: c475130eed (このIDを非表示/違反報告)
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